2016/07/03

猫嫌い

母が猫嫌いだったから子供の頃に猫に間近に接したことがない。大学時代以降猫にふれる機会は時々あったが、好きにはなれない。

街猫は何といって家畜としても野生動物としても半端な存在で、ほとんどの個体は結局人間に依存し切っている癖にいうことは聞かず (人の言葉を色々憶えるだけの知能もないらしいが) 、都合の良い時だけすり寄ってくるからだ。自分で飼っている柴犬もプリミティブな犬種で様々な犬種の中では人間への精神的依存が少なく、したがって中々いうことを聞かず、清潔好きなこともあって猫っぽい犬だが。

石井桃子作「山のトムさん」には、戦後間もない当時に農家で害獣除けに飼われていた猫たちが痩せて目をギラギラさせて畑で鼠などを見張っていたことが描かれている。そういう猫たちは飼い主たちにとりほとんど必須の存在で、与えられた餌以上の仕事を果たしていた。そういう猫たちは今も田舎では仕事をしている。鼠から収穫物や家畜の飼料を守っている。英語圏では farm cat とか barn cat とか呼ばれる。

うちの犬は猫を一緒に遊べる相手とみなしていたが、相手はそうは思ってくれない。若犬時代何度も家から脱走したが、行くところは近所の餌やりをしている家と決まっていた。連れ帰って明るい場所で見ると頬に浅い傷を受けていることが二回ばかりあった。そんなこんなで成猫は恐れるようになった。こけ脅しに猫が1m突進してみせると悲鳴をあげて3m逃げる。

以前は庭に面した軒下に折り畳み式の大きなケージを置いて不在中や忙しい時は犬をそこに入れていた。そうしたとき猫は警戒して庭はさっさと通り過ぎるし、犬も平静にそれを見送っていた。しかしガラス戸の内側に犬がいるときは猫どもは無害安全とみなして図々しく振る舞い、犬も頭にきて追っ払おうとガラスに体当りを繰り返したりする。近所迷惑だが幾ら叱っても呼んでも聞かないので、最近はそうしたとき門扉の閉鎖を確認してから外に出すようにした。すると猛然と猫を追い回し、猫はみな命懸けで逃げる。捕まえたことはないが、殺しても心は全く痛まないだろう。入ってきた方が悪いんだから。

公園などで自分一人の刹那的快楽だけのために餌やりをして野良猫を無意味に増やす人たちは許せない。犬が誤食する気遣いさえなければトレーなどに放置してある猫餌に不凍液を注いで回りたいぐらい。

散歩中に猫を見つけて喜んでいる犬 (ちょっと緊張)
喜ばれている猫

2016/06/28

ラテン語

17世紀のヨーロッパでは中流以上の家庭の男の子は今の小学生くらいの年からラテン語を教わっていたらしい。ラテン語を習得すれば、それが俗語化したり、その影響を強く受けたりした言語の習得は容易になるからという理屈だった。マーク・トウェインは1836年生まれだが、その時代の米国中西部でも、上の学校に進む予定の男の子はラテン語を習っていた。18世紀にベンジャミンフランクリンは、これは無意味な風習であり、大抵の子供は難しすぎるラテン語で挫折し、結局なんの役にも立たないと言っている。

私の出た大学の学科では週一×一年間だがラテン語の授業があった。もっと上の学年であった蹄鉄実習ほどじゃないが時代遅れでほぼ無意味な科目だった。担当の教師もわかっているので薄いハードカバーの教科書は適当にして、グレゴリオ聖歌や中世ドイツの学生歌などを教えて歌わせたりした。

私は既にスペイン語を独習していたのでラテン語の初歩ではごく有利であり、ある時教科書もプリントも忘れてきて机に何も置いてなかったが、教師に「君は何も持っていないのに何でも知っているねえ」と言われたりした (教室爆笑)。教科書中ほどの動詞の活用まで授業が進めばますます調子こけただろうが、そこまで進まずに終わりになった。

読む人が読めば何学科かわかるだろうが、こんな科目は今でもあるのだろうか?

2016/06/17

ジャンクフード

近所のスーパーで犬用おやつとして売っているのは例外なくジャンクフードに類するものばかりだ。

だいたいは鷄の屑肉、例えば鷄ガラに高圧ウォータージェットを当てて落とした肉切れみたいなものやファストフード企業の基準にも引っかかるような古い肉などを挽いて結着材料や軟化剤を混ぜて成形し、着色料や犬の食欲をそそる何か魔法のような合成香料を吹き付けてある。たいていジャーキーと名付けて売っている。ペット用品店ではもう少し良いものも売っているが、自分の犬に長生きして欲しいと願う飼い主が買いたいと思うようなものは一部でしかない。

犬を飼っていないが慰みに公園などでよその犬におやつを与えて喜ばせたい人はたいてい、そういう「ジャーキー」を用意してくる。魔法の香料のおかげで犬どもは自家製の上質なおやつや鶏獣肉・臓器の素干しやフリーズドライのような高価なおやつよりもそういうジャンクを食べたがる。与える方は相手の犬が太り過ぎていようが気にかけない。しかも量が多い。断るのに、あるいは最少限度にしてもらうのに苦労する。訳を話して「お金を出して感謝されないどころか敬遠されるのは馬鹿馬鹿しいでしょう、どうかやめて下さい」と言ってみたい。

飼い主の一部にもそういうジャンクを自分の犬に与える人がいる。知り合いの犬に箱みたいに太った柴犬がいるが、飼い主は避妊手術のせいで太るのだと言っている。確かにそういう犬もいるだろうが、その人が他人の犬に物凄い勢いで「ジャーキー」を与えるところを見たことがあるから全然信用できない。

2016/06/12

「柴系雑種」

辺鄙な地方や避暑地や島嶼部では放し飼いの犬が多く、野犬の群れもいる。当局は数を抑えるために野犬の特に仔犬を箱罠などで捕らえる。成犬はそういう手段ではなかなか捕まらない。狂犬病が国内に入ったとき野犬が多いと危険なためだが、現状では犬の自然繁殖に対し後手後手であり、ほとんど無駄な努力じゃないかと思う。ともかく篤志家たちはそれを引き取っては都会に連れてきて里親探しをする。

そういう犬たちには「柴系雑種」と呼ばれるタイプが多い。彼らはほぼ立ち耳巻尾で、しかし耳は大きめで巻きは緩め、毛色は柴犬より薄い茶色が多い。薄いというか一本のトップコートの毛に白から漆黒までのグラデーションを持つことの多い和犬の毛に比べて色味に乏しい。和犬も狼に比べれば乏しいが。和犬のことを知らない人たちは彼らも柴犬だと思っていることが多い。ときどき白や白茶斑や少ないがブラック&タンもいる。そして柴犬より幾分大柄で脚がすらっとしていて眼はほとんど洋犬の眼をしている。奥眼と短めの脚は柴犬が低山の下生えをくぐって走るのに適応した結果だ。洋犬と和犬の両方を狩りに使う人いわく、洋犬は狩りの後眼に入ったゴミを取ってやるのが一苦労だが、和犬にはその必要がないと。

たぶん立ち耳や巻尾はヘテロでも発現する優勢な遺伝子により、和犬の引っ込んだ眼や柴犬の短い脚は劣勢遺伝子によるんだろう。

なお、和犬の間で交雑した犬は「和系雑種」と呼ばれる。

2016/06/08

国立医薬品食品衛生試験場

上用賀一丁目の国立医薬品食品衛生試験場は今年川崎市に移転する。跡地がどうなるかまだわからない。元は府中市に移転する予定だったが、市民が「住宅地の真ん中に危険なバイオ研究施設はいらない」とて反対運動した結果お流れになったそうだ。今の場所では病原微生物など扱わないが移転先ではできるようにするらしい。



敷地の西側は土手のような土の斜面になっていて、そこに様々な種類の桜が植えてある。ソメイヨシノ以外はまだほんの若木だが。

試験場正門斜向かいのローソンはまだフランチャイジーが決まらない。いい気味だ。場所も悪い。用賀七条と中町通りの交差点にあったファミマは遥かに好立地で客もよく入っていたのに経営者は十年目に契約を更新しなかった。跡はマイバスケットになってしまった。

2016/06/07

"Shiba scream"

柴犬が急なストレスまたは欲求不満により大きい金切り声をあげることを英語圏では "Shiba scream"という。もし街中でやられると周り中の通行人が振り返り窓が開き不審または非難の眼を飼い主に集注する……というのが以前海外のブログなどを読んで得た知識である。

うちの犬も若犬の頃そういうことが数回あった。犬を連れて砧公園に毎週行くようになったのは早くとも生後七ヶ月の頃だが、その帰りに家の前まで来た時近くを顔見知りの黒猫が走って通り過ぎた。すぐ近くの餌やりをする家に出入りする二匹の若い黒猫の片割れだが、さちはキャワワワワーンと自動車に脚でも轢かれたかのような絶叫を放った。遊びたかったに違いない。

もう一回はベルヴェットの待合室で、向かいに座った飼い主のコーギと遊びたがったが、向こうは「ダウン」「グッボーイ」などと言われておとなしくしており、こちらもリードを緩めなかったら鳴き喚きだした。その頃は獣医師を怖がるようになる前かすぐ後で、ふつうは待合室では平静にしていられた。

別の時はまだ一日三回給餌で、構ってやれない時は玄関の土間に置いた長辺 90cm のケージに入れていた頃だったが、お昼に宅配のピッツァが届き熱々の箱を捧げ持って昼食がまだな犬の前を素通りしようとした時だった。

成犬になって以降は全くそういうことはなくなった。

2015/07/06

Luzia Homem (1987)

直訳すると男ルズィーア、男勝りのルズィーアぐらいの意味。昔ブラジルの映画館で見たが、タイトルはHomem Luziaだと勘違いしていた。今度英語字幕つきの動画をYouTubeで見つけて見直すことができた。Luzia Homem

ブラジル南部の内陸で皮なめし業を営む夫婦とその1人娘の幼いルズィーアのところに、いきさつはわからないが武装した牧夫数人が押しかけてきて妻を射殺し夫を馬に括り付けてさらってしまう。そこへ来合わせた親戚の男がルズィーアを自分の家に連れて行き牧場の仕事一切と銃の扱いを教える。彼は下手人が遠くない牧場「カンポ・レアル」の者たちであることを知っていた。何年か旱魃が続き彼は家畜全てを失い病に倒れ、ルズィーアに海に連れて行ってくれと頼むがカンポ・レアルの門前でこと切れる。親の仇を討ちたい彼女の心を知っていた彼は仇討は忘れろ海岸に行けと言い残すが彼女は彼を葬った後カンポ・レアルに入っていく。

その日牧場主のラウリーノは米国留学から帰った弟のアレシャンドレを迎えて牧夫たちの競技会を催していた。落馬した牧夫に代わって飛び入りしたルズィーアは見事に牛の尾を掴んで引き倒し喝采を浴びる。腕利きの牧夫で牧場主の妹テレーザの愛人であるトルカートはそのまま立ち去ろうとする彼女を観覧席に連れて行き牧場主らに引き合わせ、彼女はカンポ・レアルで仕事につくことになる。しかしラウリーノの腹心で殺人など汚れ仕事を担当する牧夫クラピウーノを含めて男たち皆が彼女に野心を持ったため牧場の人間関係が壊れていく。

トルカートがルズィーアに好意を示したため嫉妬に駆られたテレーザがルズィーアに嫌がらせをし、兄に彼女を牧場から追い出すよう言うが下心のある兄は拒否する。トルカートはそれを見てテレーザに嫌気がさして顔を見たくないと言い、ラウリーノとも言い合いをしてカンポ・レアルを辞めてよそに行こうとする。ラウリーノは彼を殺させる。地方の司直は牧場に捜査の手を入れようとしてそれを拒むラウリーノと対立する。神父やテレーザの夫などの名士たちも。愛人を殺され孤独を感じるテレーザはルズィーアに接近して友達になってくれと頼む。彼女がいわれのない贈り物を拒むので、その黒髪を売ってくれ、代わりにドレスを買ってやるし髪は切る必要はないと持ちかけ、ドレスは要らないがライフルが欲しいと言われて引き受け、ドレスもおまけにつけてやる。ルズィーアは親の仇がクラピウーノだと目星をつけていた。

アレシャンドレは牧場内にある鉱物資源の露頭を採掘する計画を立て米国の友人で鉱山技師を招くが、ラウリーノは弟が催した歓迎パーティに大勢の名士が集まったのが快からず、また彼がルズィーアの心を射止めそうなのと牧場内で爆破だの大型建機を持ち込む採掘を嫌ってある日技師たちに向かい銃を乱射し追い払い、アレシャンドレと殴り合いの喧嘩をした末負けて泣く。ルズィーアはとうとうクラピウーノを待ち伏せして問い詰めたうえ馬から撃ち落とし、長いナイフで滅多刺しに刺し殺す。本懐を遂げたルズィーアは滅茶滅茶になった牧場を後にし、夜通し東に馬(誰の?)を駆って海岸に出、白いドレスを着込んで海に歩み入り一人悦に入る。おしまい。

IMDBの評価は7/10で高くない。単にブラジル南部の牧夫風俗や主演女優の魅力くらいしか取り柄がないからだと思う。