2020/05/31

「ゆかいなヘンリーくん」シリーズ


第一作の表紙

むかし弟に与えられた Beverly Cleary 著の児童小説。家に二冊か三冊あったと思う。当時自分でも読んだが、なんとなくまた読んでみたくて amazon.com で探してみた。 男の子が主人公なのは Henry Huggins で始まる六冊 (1950-1964)で、アマゾンジャパンで英語の kindle 版が買えた。1950年代当時の米国の下層中流社会の様子、住宅事情、特に子供や教育、犬をめぐる事情が伺えて面白い。途中からヘンリーの近所の姉妹の下の子ラモーナが主人公のシリーズ (1955-1999) も出ていて、それもあとでまとめて買った。

このラモーナは想像力過多の幼児で始終変な仮想の一人遊びをしておりおまけに頑なで、まわり中の人に迷惑をかける (わんぱくデニス 原題 Dennis the Menace という TV シリーズや映画があったが、彼女も perfect terror とか awful pest とか周囲の大人や年長の少年少女から言われている)。しかも姉のビーザスも面倒見がいいので学校に行ってない時は嫌々ながらどこへでもラモーナを連れて歩く。

読みだして最初に意外に思ったのはシリーズ第一作が1950年に出版されているのに、挿絵を見ると子供向けの換気孔つき自転車用ヘルメットがあったこと。もっともヘルメットへの言及は本文になく、挿絵は比較的新しいもので、安全のため着用を促すために挿絵に取り入れたと思われる。

また (当初) 小学三年くらいの主人公の男の子は警察署の競売で買った自転車に欠けていたスポークを用品店で買い、年長の友人スクーターから借りたスポークレンチ (日本ではニップル回しともいう) で曲がりなりにも張り直している。自転車用手工具は一通り持っているが、自分ならスポークなんて折れたり歪んだりしたら買った店に持っていって直してもらう。ホイールが歪まないようにきちんと張り直すには振れ取り台という道具も必要だし。しかし物語では結局競売で手に入れた自転車はボロで欠落部品が多い上に元々トップチューブのない女の子用で箒の柄をくくりつけてトップチューブに見立てたりしたが結局モノにならず、金を工面して新品の自転車を買う。

ゴミ出しは生ごみから空き缶まで全部一緒くたに裏庭の30ガロン (=136リットル、普通のドラム缶が55ガロン) の大きな缶に入れておき、週に一度収集されていた。たぶん収集したゴミは燃したりせず埋めていたんだろう、米国なら場所に不自由はないから。同時代の日本の都市部でのゴミ収集事情はよくわからないが、新聞紙やチラシはきれいに折って小銭と引き換えにゴミ屋さんが集めていってリサイクルされたと思う。缶瓶も別ルートで。物語にディスポーザーのこともちょっと出てくる。うちでは一時期それを使って生ゴミを粉砕して下水に流していた。今でもマンションなどではかなり使われていて、下水処理場への影響は大した問題ではないそうだ。

大事にされている純血種の犬も含めてほとんどの犬は放し飼いだった。そして他人に多少大きな迷惑をかけた犬はすぐ"pound"へ送れと要求された。パウンドはアニマルシェルターの別名でもあるが、当時も問題犬にとっては安楽死またはそれより悪いことしか意味しなかった。アニマルシェルターはパウンドの婉曲語だなどとも言われている。米国を基準とするなら、近年欧米在住の人々が言うほど日本も後進的ではなかったような気がする。

猫は屋外に放しっぱなしでない場合は夜間や留守中など地下室へ誘い込んで閉じ込めておかれた。物語では空き地で催される慈善のための不要品のセール (rummage sale) に箱に入った四匹の子猫が出され、定刻までに売れ残ったらパウンドにやられるという話もあった。ヘンリーが彼らに新しい家を見つけてやるために全部買い取るというところを見ても、単に殺される場所のようだ。

駐在員のコラムその他で米国では少年が新聞を配って歩くことは読んでいた。ときには親の運転する車を使うとかも。日本では販売店は商店街かその外れにあってたいてい高校生か大学生が配達をし、一部は店の二階に寝起きしている。拡張団と呼ばれる勧誘要員が別にいる。配達員は朝の三時には店に来てせっせと新聞を折ったりチラシを挟んだりしている。しかし大都市では違うかも知れないが、この小説を読む限り米国では住宅街の一戸の住人が地区マネージャーとして販売店を兼ねていて、11歳くらいからせいぜい高校生くらいまでの少年がそこのガレージで新聞を畳んで配達し、集金も新規客の勧誘も彼らがするらしい。新聞はたいてい夕刊紙で日曜版だけ朝配られるとか。

あと、学校の活動で頭からペンキを被ってしまうシーンがあるが、むかし読んだ時、そこでペーパータオルというものの存在を初めて知った。

ヘンリーが犬と一緒に、父と隣家の亭主との鮭釣りに同行し、釣り舟の桟橋の近くに缶詰工場がある部分を読んで、むかし父の米国の知人が毎年自分で釣った鮭をスモークした缶詰を一箱送ってくれていたことを思い出した。とても美味しいのでずっと送ってもらえるように是非礼状を書いてくれと頼んだが、そしたら翌年から来なくなった。

子どもたちと彼らの犬のためのドッグショーのシーンで、"There were boxers, Great Danes, Pekingese, Airedales, cockers, Saint Bernards, Pomeranians, beagles, setters, pointers, and just plain dogs."とある。慣習として犬種名は頭文字を大文字で書くのは知っている。柴犬は "Shiba Inu" と書く。が、コッカーにはイングリッシュとアメリカンとがあるしポインターやセッターにもジャーマンとかがあるので普通名詞になり (?) 頭文字を大文字にしないのはまだわかるが、ボクサーとビーグルはどうしてだろう。"french beagle"などと検索してみても何もヒットしないぞ。

また英語で不明なのは、自転車のハンドルバーを"handlebars"と複数形にしていることだ。一本なのに。単に「ヘッドチューブの上のクランプから左右に出ている掴むところ」という意味でなのかもしれないが、ヘンリーが飾りとしてハンドルバーの一端に付けていた洗い熊の尾を取り外す際も複数形が使われている。

子供の頃、冷凍の小さめのピッツァを時々食べたが、商品名はピザパイだったので家ではみんなそう呼んでいた。このヘンリー主役のシリーズの最後の本で "pizza pie" という言葉が出てくるので、そういう言い方もあったのだなと知った。今は何語でもピッツァかピザとしか言わないよね?だいたいあれはパイじゃないし。

This Is The Only Pizza You Should Call A Pizza Pie

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