2018/10/03

さち その3 越境事件

十年半くらい前の平日六時半頃、砧公園サイクリングコースでさちを放していたら、西門付近で見失った。一時間ほど心当たりを探したが見つからないので会社に遅れないよう家に帰ることにした。

念のため一号売店前から家に電話をかけていたところ、なっちゃんの飼い主さんが来た。帰宅すると言って別れたがそのあと探してくれた。さちのことを心にかけて探してくださった方は他にもいたに違いない。柴主仲間の春と健太それぞれの飼い主さん達は、右回りと左回りに手分けして園内をくまなく探し、尋ね歩き、反対側で会った時もう園内にはいないという結論に達したそうだ。帰宅したが会社は休むことにして、PCに向かって公園サービスセンターや関係各役所の電話番号をリストアップして、九時まで待った。サービスセンターは八時半始まりだから、30分早く電話すればよかった。

九時にサービスセンターに電話して訳を話すと、そういう犬は保護していないが大蔵運動公園に電話してみたかという。そんな公園は知らなかったのでどこにあるか聞いたら道路をはさんで西門の向かいだと言い、電話番号をおしえてくれた。電話してみると柴犬はいるという。違う犬だったら困るので名札を見てくれないか頼むと、すぐ戻ってきて「さち」だという。すぐ行って体育館の地下の事務所に行き「柴犬を保護しているそうですが」と言うと、「保護しているわけではありませんが」と言って隣のドライエリアに案内してくれたが、そこでさちは二人の職員となっちゃんママとに遠巻きに囲まれていた。

なっちゃんママは一号売店前で別れてから家に電話をかけてお父さんを呼び出し、なっちゃんを預けた。さちを見つけたらリードがもう一本要るし、犬を連れていては園内を自由に捜索することができないからだろう。それから一人で目撃情報をたどって大蔵運動公園に入り体育館地下で職員に遠巻きに囲まれているさちを見つけた。公園で最も親しい飼い主であるなっちゃんママが呼んでも来ないので、職員に「何か食べ物はありませんか」と尋ね、昼食用に買ってあったサンドイッチを出してもらった。それで釣って捕まえようとしたが二度失敗し、もうそれ以上は決して誘いに乗らなかったそうだ。私に連絡するすべはなく、会社に行くと言って帰ったのだからその日のうちに来ることは当てにできなかった。保健所やシェルターで使っているような道具があればすぐ捕まったろうが。

私が到着して「こら、さち!」と言ってリードを出して近づくと素直に捕まり、職員は「やっぱり飼い主だ」と言っていた。陳謝し、なっちゃんママにパパが二号売店前にいるから早く伝えてくれと言われて向かった。パパはそこでなっちゃんと二時間以上待っていたそうだ。

なっちゃんママがサンドイッチ代を弁償したか職員が受け取らなかったかどうか知らない。春親父には他でも迷惑をかけたことがあったから中元として缶ビール半ダースを進呈した。

越境の動機は西門近くで猫の臭いを嗅ぎつけたからに違いない。当時は大蔵運動公園の餌やりはやりたい放題で、猫用のダンボールハウスというのは見たことがないが、十数箇所に分散してトレー (煎餅やつまみの袋に入っているような) に載せた猫餌や開けた缶入り犬猫用ミルクが置いてあった。やったらやりっ放しで朝になっても喰い残しはそのままで、テーブルの下など見つけやすい場所にもあったが、多くは潅木の植え込みの下などに人目につかないように隠してあった。

その後公園の管理者たちは取り締まりを厳しくしたらしい。今はもうやりっ放しの置き餌は朝にはほとんどない。しかし置き餌でないやり方でやっている人はいるに違いない。

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