2019/12/31

Raul Soares

ブラジルはミナスジェライス州のど田舎の小さい町 Raul Soares,(Google Maps、 ハウソワイスのように発音) にしばらく滞在したことがある。

ある牧場に用があって来たが、そこの牧場内の獣医師夫妻の家に泊まれるものと思っていたら、既に ABC (Associação Brasileira de Criadores: ブラジル畜産者協会) の女性検査員を泊めることになっていたので、仕方なしに町の唯一のホテルに泊まった。州都ベロオリゾンテ (Belo Holizonte) で両替しそこね、ドル以外の通貨がスッカラカンのままだった。あとで牧場主がホテル代全額を払ってくれた。サンパウロに帰る旅費の分は牧場のマネジャーにドルから両替してもらった。

ブラジルでは公定の対ドルレートの他にカンビオネグロ (Câmbio Negro) という闇レートがあるが、闇どころか毎日TVや新聞で公表・更新されており、ドルを売るには公定レートよりずっと有利。サンパウロ州立大はブラジルの大学中最難関だがその割に研究業績は芳しくなく、院生も教員もいつか米国の大学で研究したい希望があって誰でも小額でも喜んでドルを買ってくれた。当時は酷いインフレで、一週間を超える分の生活費をドルから両替するのはドライアイスを十日分買い込んで戸棚に保存するのと大差なかった。この Raul Soares 訪問時の通貨はクルザードノーボ (Cruzado Novo) で、数年前のクルザードの時代よりはインフレは改善していたが、それでもまとめてドルから両替するものではなかった。

町にはもと鉄道駅があったが鉄道は撤去され駅舎は長屋式の小さいショッピングモールのようなものになっていた。牧場には一戸建て平屋のコンピューター室があり、高卒の若い男女三~四人が働いていて、町に住んでいる彼らを送迎するフォルクスワーゲンの Kombi がホテルにも寄ってくれたので毎日それで通った。

町には日系人が自動車修理工の二人しかいないということで、珍しい日本人を見るためホテルの前には毎朝子供が集まった。

ホテルの帳場にこういう文句を印刷した小さい掛け軸が下げてあった。

O rico e o pobre são duas pessoas
O soldado protege os dois
E o operário trabalha pelos três
E o vagabundo come pelos quatro
E o advogado defende os cinco
E o juiz condena os seis
E o medico examina os sete
E o coveiro enterra os oito
E o diabo carrega os nove
E a mulher engana os dez

金持ちと貧乏人の二種類の人間がいる。
兵士はこの二者を守る。
役人はこの三者のために働く。
与太者はこの四者にたかる。
弁護士はこの五者を弁護する。
判事はこの六者を断罪する。
医者はこの七者を殺す。
墓掘りはこの八者を埋める。
悪魔はこの九者の魂を地獄に運ぶ。
女はこの十者を騙す。

砂糖黍の刈りあとで寝ころんだりしたせいで、ダニがついた。リオで開かれる学会 (The World Buiatrics congress) に来る大学の研究室の先生・OBなど日本人一行を空港で出迎えると言ってあったが間に合わず、リオのホテルのエレベーターに乗り込むところで追いついた。シャワーを浴びるごとに股ぐらからまんまるに膨らんだダニがコロコロ見つかり日本人たちを恐慌におとしいれた。

2019/11/28

ガーリックハニー

Garlic honey
一日目と十一ヶ月目のガーリックハニー
Image credit: u/meehanimal


ガーリックハニーは蜂蜜に皮を剥いた大蒜を漬けて発酵させたもので、飲み物に入れるなど色々な用途があり、おいしくて健康にもいい。

蜂蜜は糖類による浸透圧が高く、その中ではほとんどどんな菌類も発育・増殖できないが、大蒜の切り口や潰した時の割れ目、皮を剥いた時についた傷など、大蒜の水分を含む組織と蜂蜜とが接触するところでは滲み出てくる大蒜の汁で薄まり、蜂蜜中の酵母菌による発酵がおきて発泡する。だから大蒜は包丁ごしに押し潰すか、麺棒などで叩いて潰してから使ったほうが発酵が速く進む。また潰せば剥けなかった薄皮も剥きやすくなる (まあ少しは)。最近では薄く輪切りにして漬ける。その方がずっと進行が速いし多少薄皮が残っていても辛くて食えない粒ができることもない。

濃縮目的で加熱してない蜂蜜ならスターターは必要ない。蜂蜜は普通大蒜より重いので大蒜が浮き上がってしまう。そうすると大蒜の蜂蜜に触れていないところでは発酵が止まってしまうので、何か適当なものがあったら重石をするといい。きれいな小さい食品用ガラス瓶とか。米国アマゾンその他ではメイスンジャー用のガラス製の重石を売っている。薄切りだと蜂蜜が軽くなるのも速いので必要ない。

発酵の進行は果汁や水を加えて加熱した穀物などよりゆっくりだが、進むと糖の消費とアルコール産生により蜂蜜の流動性が高くなる。軽くなった蜂蜜は液面近くに溜まるので、漬けてわりとすぐに瓶を動かした時液面が軽く波立つようになる。底の方はどうかわからない。時々瓶を揺すって蜂蜜を均等に混ぜ、大蒜が薄くなった蜂蜜とだけ接することのないようにする。

だいたい漬けて一週間から使え、最も美味しくなるのは三ヶ月後くらいからだそうで、冷暗所で年余の保存ができるようだ。糖が消費されて浸透圧が下がってもアルコールが増える分雑菌の繁殖は抑えられる。蜂蜜は酸性 (平均pHは3.9) なので通常ボツリヌス菌の増殖 (pH4.6以上が必要) はおこらないが、心配なら多少果実酢を加えれば中毒の気遣いはない。その目的かどうかスライスしたレモンを一緒に漬けることもある。いずれにせよ一歳未満の乳児に与えてはいけない。大蒜の臭気はするが、蜜は冷たい飲み物に入れても違和感なく美味しく飲める。他の果汁や発酵飲料などと共に炭酸水を加えて飲んだりする。生の蜂蜜と違って流動性が高いから冷たくてもよく混ざる。そのまま焼いたピッツァやトーストに塗ったり、醤油や酢など調味料を加えてソースやサラダドレッシングも作れる (鶏料理によく使われるガーリックハニーソースというのは発酵させてない) 。

使う分を発酵用のボトルから取ると、ボトルの口あたりが汚れるかスプーンなどを洗わなくてはならないかするので、ある程度発酵が進んだらスクイズボトルに移してもいい。一ヶ月くらい漬けた大蒜を食べてみると、全然辛くなくなったものと喉が焼け胃に来そうなくらい辛いものがある。辛いのは薄皮が残っていたものかも知れない。文句なく美味しく健康によく用途が広いガーリックハニーの問題点は、他の発酵食品の何よりまして材料の支度に手間がとれることだ。つまりたっぷりと仕込むには大蒜の皮と薄皮を剥くのが大変すぎる。だから沢山は仕込めないし蜜の方は一ヶ月以内に使い切ってしまう。国産の大粒の方が手間は少ないようだ。エレファントガーリックが手に入ったら試してみよう。

参考動画
Brad Makes Fermented Garlic Honey

2019/11/24

数年間豚でご飯を食べていたので、生きた豚のことはわりと詳しい。

猪は地中の植物の根や根茎や昆虫などを硬い鼻の上端で掘り出して食べるように進化して来たので、頭骨後部と背中の肩甲骨あたりを結ぶ強大な筋肉群をもっている。それは食物を得、下顎から上向きに生えた牙を有効な武器として使って身を守るだけではなく、知能の進化をも支えている。人の祖先が直立歩行することによって頭脳の発達を有利にしたのと同様に、頭を支える強い筋肉は重い大脳と頭骨をよく支えるからだ。豚には少なくとも犬と同等の知能はあると言われている。

Move over Lassie: IQ tests reveal pigs can outsmart dogs and chimpanzees

しかし様々な使途のある犬と違い、豚は雌を使って地中のトリュフを探させること以外に一部が愛玩動物としてしか使われていない。もしかして番豚として働いている個体もあるかもしれないけど。不潔な環境に住むことを強いれば不潔にしているが、犬同様に清潔にしていることもできる動物である。子豚は人見知りをしない一ヶ月かそこらのものが一番かわいい。ベトナム種の豚は小さいので、それをペット用に改良したミニ豚が日本でも飼われている。支那・ベトナム種の豚の特徴として腹が大きく垂れているところはあまり格好いいとはいえない。

pet pig
ペット豚

猪の亜種である豚も鼻先で物を持ち上げる力はとても強い。木の柵などは低い横木を押し上げることで簡単に壊されてしまうし有刺鉄線も役に立たない。豚の飼育の歴史は柵を壊す豚と修理する人間の戦いの歴史だったとも言える。大規模にやっている種豚場や養豚場のあるじには柵の修理に必要な鉄棒の溶接は必須スキルである。最近は目の粗いスチールネットフェンスに電圧をかける方式が使われることが多いらしいが、豚舎内の柵や仕切りには使えない。

猪や豚特有の攻撃行動に「しゃくり」がある。敵の股ぐらに鼻先を突っ込んでひねりを加えながら勢いよくもたげることで、例えば小柄なバークシャー種などを除き成豚の体重が300kgを軽く超えるヨーロッパ種の猪や豚は、成人男性を数m投げ飛ばすばかりか牙によって大血管やその他の臓器に致命的な傷害を与えることができる。日本で養豚が今のように集約大規模化せず、沢山の農家が少数の豚を飼っていた頃、年に数人はこれで死んでいた。もちろんそういうことをするのは去勢され六ヶ月かそこらで出荷される肉豚ではなく繁殖用の種豚である。といってもまだ牙が伸びていない六ヶ月ぐらいの繁殖用の雄豚でも人をしゃくろうとする。


人がまさに投げ上げられるところ
この人は25cmの深い裂傷を負った
Image credit: news.com.au

もちろん咬みもする。怒れる雄豚に対してその辺に落ちていたナンバープレートほどの鉄板で防戦した挙げ句に手を咬まれて数針縫う怪我をし、当の豚も危険すぎるとして屠畜場送りになったことがある。

2019/11/23

mont-bell

モンベルという会社は最近犬用品や子供服まで扱っている。でもアマゾンジャパンでカタカナや横文字でペット用カテゴリを検索してみたが、犬用靴下一点しかヒットしなかった。

むかし山に行きはじめた頃、モンベルのテントや一・二の衣料を買って使っていたが、創業後七年かそこらしか経ってないのにロゴに"Since 1975"とか入れているのが可笑しかった。よっぽどブランドに誇りというか愛があるらしい。

水道橋のさかいや (その頃の店長がのちに店を買い取って自分のアウトドア用品店をやっている) で折り畳み傘を買ったが、家に帰って開いてみるとデカデカと mont-bell のロゴが入っている。金を取って売るものじゃなく、ノベルティグッズとして配るのが適当という代物だった。返しに行ったら店長は開いた現物を展示してあったと主張して応じなかった。父に使ってもらおうとしたが、色が気に入らないと断られた。一度も使ってない。今もほぼ同様な傘を作っているが、ロゴはいくらか控えめだがまだ大きい。何様のつもりだ?

私は無印良品の衣料が好きだ。天然素材や色彩が好きなだけでなく、ロゴを入れない姿勢も好き。ただデザインは好かないものが多いので最近は台所用品やTシャツ・靴下のような下着しか買ってない。

テントはムーンライトシリーズという物の一・二人用だが、四本継ぎ・骨二本のシンプルな四つ手網式のと違って骨組みが複雑で、開くのは簡単だがショックコードの一部にテンションが偏らないように気をつけて畳むので撤収に時間がかかった。往々テントを持っていても使わずに露天で寝たのは、コリン・フレッチャーの「遊歩大全」の影響ばかりでもない。のちにカモシカスポーツのエスパースシリーズのシンプルな冬天を買った。

2019/10/10

すべりひゆの漬け物

reddit.com の r/fermentationすべりひゆの漬け物の投稿を見てから作ってみたくなった。

アマゾンジャパンで野菜の種として売られている東欧産の種子を買ったが、種子から育つのが待てないので犬の散歩中に歩道・空き地・農地など路傍を物色したが中々生えてない。とうとう見つけたので二株抜いてきて植えたら、大きな花が咲く観賞用品種だった。それでも食べるのに問題はないという。しかし、抜いてきた場所を明るい時に見たら誰かが植えたものだったらしい。野菜の種子としての商品には夏すべりひゆと冬すべりひゆとがある。冬の方はF1種だそうだ。

Purselane on sidewalk
抜いてきた場所

挿し芽もして、その間に種子も蒔いた。花は最初放置していたが、観賞用品種の種子を落とさないように、また草の成長に養分が回るようにそのうち花は蕾のうちに摘むようにした。

Purslane on a planter
プランターに挿し芽したところ

一回収穫して洗ってから潰した大蒜と黒胡椒と一緒に5%の塩水に漬けた。これは3%でも良かったかも知れない。正確に塩を計るには容器に水と野菜 (この場合すべりひゆ) を然るべき線まで入れて重量を測り、容器の乾燥重量との差を元に計算する。一部はかなり長いまま漬けたが、食べる時のことを考えたら 5cm くらいに切るべきだった。五日後に試食したが、シャキシャキとした歯ごたえで美味しかった。

最初のには大蒜と黒胡椒しか加えなかったが、ローリエ(ベイリーフ)・マスタードシードなどを加えるレシピも多い。またすべりひゆを先に茹でたり酢を含む塩水を熱くして注いだりもする。生の方が歯ごたえがいいと思うので加熱する調理法は試さない。二回目はピクリングスパイスというマスタードシードを含む各種スパイスのミックスも使ってみたが、ピリピリしすぎた。

Prepared purslane in a bottle of brine
左から二つ目が大蒜と漬けたすべりひゆ

すべりひゆはオメガ3脂肪酸を豊富に含むんだそうで、それもあてにしていたが、植物由来のオメガ3は海洋動物由来のものの代わりにはならないそうだ。しかしビタミンA・B群・C群及びそれぞれの前駆体やグルタミン酸に富んでいる。

ソース:Differences between Omega-3 Fats from Plants and Marine Animals

観賞用品種を抜いてきた場所は翌年には全然別の植物が植わっていた。また最初の年には種から出た株は全て花が咲く前に抜いて使ってしまったが、翌年それだけを蒔いて育てると、葉が大きくてそれほど厚みのない、花は黄色くてすごく小さいものが生えた。まるきり別の植物のようだ。あと、虫が付く。やっぱり野菜だ。



How to Harvest Purslane
Harvesting Purslane for Current and Future Use

2019/09/15

スペイン語とポルトガル語

イベリア半島のカスティーリャ地方とポルトガルの標準語であり、共にラテン語の通俗方言が元になった言語だが、結構違うところがある。

スペイン語 (以下「西語」) を基準にして言うと、ポルトガル語 (以下「葡語」) では R と前後の母音の位置が入れ替わっていることが多い。

市・曜日 feria <-> feira

E と A が入れ替わる例も多い。西語で特定の料理を供する店を意味する語尾 -eria は 葡語では -aria になる。ピッツァ屋 pizzeria <-> pizzaria

同系統の単語で全然違う意味になるものがある。英語の exquisite 西語で exquisito/exquisita はどれも絶妙な、えも言われぬという肯定的な意味だが、西語と同じ綴りの葡語は珍妙なという意味になる。 西語 oficina では英語 office と同じ意味、西語と同じ綴りの葡語では作業場・修理工場という意味になる。英語なら (work)shop, garage になる。では葡語で事務所はなんと言うかというと escritório つまり書き物をするところ、だ。

こういうことだから、よくイスパノアメリカの人とブラジル人との滑稽な会話はジョークのネタになる。

私は西語をほぼ独習だけで学び、それから短期間ブラジル人から葡語の個人教授を受けてサンパウロに行った。西語の下地があるので約三ヶ月で葡語は流暢に話せるようになった (発音は別の話)。でも西語圏に旅行に行くと一週間以内にはなかなかすぐ西語が口から出ない。帰ってくると逆に葡語が出ない (Obligado と礼を言うところを Glacias と言ってしまう)。帰国してのち数年南米からの出稼ぎ者が多い地方で働いたからその間時々は使う機会があったが、その後東京に戻って全く使う機会はなくなり、西語と葡語とをきちんと分けて話すこともできなくなった。もはや何の役にも立たない。

中学生か高校生の頃、英語は正しく発音しないと決して理解してもらえないと言われた。ドイツ語についても同様な話を色々聞いた。しかしブラジルで葡語はいい加減な発音でもわかってもらえる。ブラジルに来て一ヶ月かそこらした頃、日本人の留学生に紹介された。彼は半年くらいいるということだったが、彼の発音を聞いて「これなら三か月で追いつける」と思った。しかしそうはならなかった。

適当でもわかってもらえる以上発音を向上させようという気が失せたから。西語では祖父祖母は "abuelo"と"abuela"で発音は少しも難しくない。でも葡語では"avô"と"avó"で後ろの母音が発音し分けられるどころか聞き分けもできない。Coca Cola は Coca (Google translateではコキ"coque"になるがサンパウロではそうではない) というが、軽食堂で言うといつでもオウム返しに聞き直された。それでもわかってもらえるから問題ない。

西語で巻き舌になる、語頭やアクセントのある母音の前の R はサンパウロでは少し強いハヒフヘホで発音 ("Queen of Rock, Tina Turner"は葡語で"Rainha do rock"だが、ハイーニャ・ド・ホキなんて発音する) するから巻き舌もうまくならない。かくして現地にいながら葡語の発音は一向上達しないままになった。

言葉じゃないがブラジルでまごついたのが、後ろにアクセントのあるフンフン?という鼻声だ。英語国の否定的な意味のそれじゃない。一生懸命説明してフンフン?と返されると聞き流されているような気がするが、ある日授業を受けた時に先生が一通り話してから「今のは判ったかい?」と聞くと一同「フンフン?」。ちゃんと聞いているよ、理解したよという意味だった。
あと、チッチッと舌打ちをして軽く左右に首を振る仕草。これは何も格好付けているわけでも失礼な仕草でもない。例えば店員にこれこれの物があるかと聞いて、無い時チッチッと舌打ちして首を振る。

注1:イベリアは七百年の間イスラム文化圏だったので、西語には名詞はじめかなりの言葉がラテン語起源の語とアラビア語起源の語と二本立てになっている。店を意味するのにラテン系の "Tienda" とアラビア系の "Almazen" があるように。ただしある程度違ったニュアンスを持ち、使い分けられられている。何々でありますようにという時「アッラーが何々してくれますように」というアラビア語の慣用句から来る "Ojara que 何々" という言い回しがごく普通に使われる。

注2:西語はイスパノアメリカ諸国ではスペイン語 (español) とは言わず、カスティーリャ語 (castillano) と言う。ブラジルの葡語については一時期ブラジル語と呼ぼうという運動があったが、ブラジルの葡語はむしろポルトガルのそれより昔の葡語を保存していること、世界の葡語話者の圧倒的多数はブラジルに住むことから、今ではポルトガル語 (Portugués) と呼ばれる。なお、一方の話者が他方を話そうと努めるときの両者の混淆した言葉は Portuñol とか Espagués などと呼ばれる。

Mari Trini

1980年前後、NHK教育テレビのスペイン語講座で数回にわたりスペインのシンガー・ソングライター Mari Trini の歌を何曲か紹介していた。その後、ラジオの方だったか教本に広告が出ていた市ヶ谷のマナンティアル書店に行った時に易しい本 (Marcelino, Pan y Vino とか Platero y Yo など) と共に確かカセットテープを幾つか買い、ずっとのちに amazon.com からも CD を買って聞いた。

Mari Trini
Mari Trini

彼女は十年前に肺癌で亡くなったが、小児マヒか何か生まれつきの障害も持っていたがそれを克服した。だからか彼女の歌は聞く者を勇気づけてくれるものが多い。

その後 mixi に彼女のコミュを作り、すぐ会員が何人か集まったがそれ以上は増えず、代表を誰かに代わってもらって自分はすっかり mixi から足が遠のき、Mari Trini コミュもまた幽霊コミュになってしまった。

結局、講座で彼女の歌を紹介した時期に視聴していたか、たまたまラジオなどで聴いてしかもスペイン語を学習したことがあって歌詞が聞き取れた人くらいしか日本には彼女の歌のファンはいないんだろう。

最近 YouTube でまた彼女の歌を聞くようになった。

スペイン語版ウィキペディアのGoogleによる日本語翻訳

Top Tracks – Mari Trini
YouTube上のプレイリストだが、聞いたことのない歌も多い

2019/09/09

発酵食品のマイブーム

Sandor "Sandorkraut" Ellix Katz の「天然発酵の世界」(原題 "Wild Fermentation") を読んで全粒ライ麦100%のパンを焼いたのが一番はじめで、それ以来甘酒、ザワークラウトクワスビートクワス、ジンジャーバグ、ホットソースと作ってきた。

Fermentation
右から犬用ザワークラウト、ビートクワス、すべりひゆ、明日葉入りザワークラウト

ライ麦パンは以前近所のロゴスキー社長宅に併設の工場で買ったことがあるので初めてではないがあまり美味しく食べられなかったので一回きりでやめた。残念なことにその渋谷ロゴスキーセントラルキッチンは最近料理の直売をやめてしまった。時々ピロシキなど買って食べていた。ピロシキは本場のような焼きピロシキでなく揚げピロシキでやたら高カロリーだったけど。

甘酒は麹と玄米で多機能炊飯器を使って作ったが炊飯器を長く占有した割にうまくできなかった。魔法瓶で作る方法を知ったので、冬になったらまた試す。たしか容量の大きいガラスの魔法瓶があるから。ビートクワスやジンジャーバグは気に入らなかった。また下戸だからアルコール分が数%まで高くなるものはいけない。前々世紀の遺物である酒税法はどうでもいいが。

クワスも同じ材料と手間で少しでも炭酸水などによる希釈に耐える濃いのを作ろうと、かなり多めのレーズンやりんごジュースを加えたが、糖分を増やせば必然的にアルコール分も増えるし炭酸ガス分圧も上がって冷蔵庫で保管中にPETボトルがカチカチになり、数時間おきにキャップを緩めては泡があふれる前に固く締めることを五回以上繰り返さないと中身を撒き散らさないで開栓はできなかったので、以後レーズンは少しだけにする。

ホットソースの風味は気に入った。カレーのCoCo壱でも二回くらい一辛を試して普通の辛さに戻ったくらいで、全く辛い料理のファンではないけど、スパゲッティのミートソースやキーマカレー (どちらも基本レトルト商品) に足したりポテチをディップしたりして使うし、ザワークラウトを漬ける時唐辛子の代わりに入れたりする。

ジンジャーバグやホットソースは reddit.com の r/fermentation を見て作ってみたくなった。見ているとずいぶん色んな漬け物や飲料のレシピや結果が写真付きで投稿されて楽しい。同じ主材料に対して色々な副材料を数種類と、バリエーションには際限がない。とてもやって見る気にならない物 (たとえば味噌・キムチ・酢といった良品がスーパーで安価に手に入るものや、アルコール分が数%になる酒類とか) も多いが、試してみたくなるものも多い。スベリヒユの漬け物とかね。昔日本で大はやりした紅茶キノコに関するポストも頻繁にあるけど、なんとなく試してみる気にならない。種菌をどこかから手に入れないといけないし。ザワークラウトに関しては十分な経験があるので初心者に助言したりする。

散歩中に虫食いのすくない大きなスベリヒユの株を抜いてきたのでプランターで挿し芽で増やしてみる。花が大きいので観賞用品種らしい。

また Brad Makes Fermented Garlic Honey | It's Alive | Bon Appétit を見てガーリックハニーも作ってみたくなった。この YouTube チャンネルも reddit.com で知った。

付け足り1: すべりひゆは少量だけど栽培して二回漬けた。おいしかった。ガーリックハニーは大蒜の薄皮を取るのが面倒だが既に数回漬けた。これもとてもおいしい。

付け足り2: 発酵用の容器としては冷蔵庫に入らない琺瑯引きや常滑焼の瓷のほかに、無印良品のガラスジャー (耐熱ガラス丸型保存容器4) 、1リットルと1.5リットルの広口ナルゲンボトル、広口メイソンジャーを使ってみた。ナルゲンボトルは大容量だと径が変わらず丈が高くなるので冷蔵庫に立てて入れられず、メイソンジャーはいまいち蓋が気に入らない。無印良品のは密閉性はシリコンゴムシートをドーナツ状に切り抜いたヒラヒラのパッキンがプラスティックの蓋に水平にはまっていて、ガスの自由な出入りは防ぐが内圧が上がれば逃してしまうし下手すれば蓋が持ち上がる。しかし安価でずんどうのため洗いやすく容量の割に冷蔵庫の棚に収まりがよいし、メイソンジャーに比べて薄手で軽いので、これからはできるだけこれを使うつもり。クワスは大きなガラス瓶で初期発酵させてから炭酸水用 PET ボトルに移して冷やす。

ホットソース

ここでいうホットソース (チリソースとも) とは家庭でチリ (唐辛子) や野菜を塩水で漬けて乳酸発酵させてからミキサーにかけたもので、クックパッドなどによくあるレシピのように酢など使わない。乳酸発酵を途中で止めるために加えることはあるらしいが何のためかよくわからない。

Hot sauce
左はパプリカなども入ったマイルドなもの、右はほぼハバネロと大蒜だけ

材料


チリは一般に細長いものより寸詰まりで太いものが辛く、緑色より赤い方が辛いようだ。チリの品種にはずいぶん色々とあるが、家の近くのスーパーでは品種名を記したものは売っていない。少し遠い店ではハバネロとハラペーニョを売っている。米国などではずいぶん多様な品種が手に入るらしい。キャロライナ・リーパーという品種はハバネロの十倍辛い。ウェポングレードといっていい。生のチリだけでなく火で焙ったものや"chipotle (チポトレ)"という保存のために燻製したチリも使われる。

品種だけでなく栽培地の気候や地味や栽培方法で果実が含むカプサイシンの量は変わると思うが、当然ソースの製法で出来上がり辛さは大きく変わる。これまで経験した一番辛いホットソースはブラジルに行って間もない頃にヘプブリカ広場で団子にかけて食べたもので、たちまち顔がカーッと来て眼鏡が曇った。すぐオレンジジュースを頼んで口をゆすいだ。サンパウロでは夕刻になるとバスターミナルなどに焼き肉の屋根なし屋台が出、あちこちから白い煙が上がる。硬い牛肉の串焼きで、ピンガも供する。この串焼きにファリーニャというマンジョカの粉をまぶし、薄いホットソースをかけて食べるが、おいおいそんなにかけて平気かと言われるくらいたっぷりかけて食べていた。

チリと一緒に発酵させる主な野菜には大蒜 (定番)・玉葱・リーキ・大蒜の芽など葱類、トマトや人参のような野菜、バジル・ミント・コリアンダー (パクチー/香菜)・パセリのような香草類がある。またパプリカ (英語では野菜としての果実は bell pepper という) などさほど辛くないトウガラシの仲間も。桃やマンゴーのような甘い果実さえ入れるのは珍しくない。

種子にも、あるいは種子にこそ辛味成分があるという誤解があるが、種子はカプサイシンを含まないし硬いのでカッターで切り残されるし、スクイズボトルのノズルで詰まったりしかねないから面倒でなければ取り除いてかまわない。一番辛いのは種子を包んでいる白い髄の部分だ。チリを切る時は眼鏡をかけない人は何か眼を守るものを着用し、手には食品用ゴム手袋を着ける。手袋をしていてもうっかりそれで顔を触ってしまったり、他のデリケートな部分に触ってしまったりしないように。

工程


基本的に塩と野菜から出る汁だけを使って圧縮し重石をかけるザワークラウトなどと違い、縦長に切ったチリや潰した大蒜その他を発酵容器に入れ5%程度の塩水を作って注ぐ (正確にはチリを含め漬ける野菜と水の目方を計ってその2.5%程度の塩を入れる)。空気から遮断するために落とし蓋や重石が要るところは同じである。概ね発酵が済んだところでミキサーにかけて粉砕し、ソースにする。なぜ最初に粉砕しないかというと、粉砕するだけで乳酸発酵のため好ましくない空気の泡をたっぷり含んでしまうのと、炭酸ガスが盛んに出てきたとき、同様に泡が粉砕されたチリや野菜にトラップされて放出されず、チリ・野菜の層が膨れ上がり浮き上がって上面が空気に触れやすく、また落し蓋や重石を押し上げたり溢れたりしてしまうから。
もっとも、最初に生のチリだけをとろとろに粉砕して塩をくわえて漬ける動画も YouTube で見たことがある。

ざく切りのままのチリや野菜を塩水の中で数日から二週間程度発酵させてから、固形物と粉砕に必要最小限の液体 (元の塩水) をミキサーに入れ粉砕してどろっとしたソース状にする。泡をたっぷり含んだソースは流動性が悪く扱いにくいので、出来るだけ室温で十分発酵してからミキサーにかけ、スクイズボトルを使うなら組織片がノズル詰まりを起こさないよう念入りに粉砕すること。ボトルに詰める時、漏斗から自重だけで流れ落ちるようでないとスクイズボトルにはたぶん荒すぎる (水気が少なくてもそうなる)。

もし液体を入れ過ぎたら、24時間程度静置して粉砕された固形分がガスを含んで浮き上がり、下の液体と分離したところを固形分だけすくいとって別容器に移すか、十分発酵させてから軽く煮て水分を飛ばす(カプサイシンが揮発するし塩分も濃くなる) か、糊料として少量のキサンタンガムを使う。10ccの駒込ピペットがあれば下の液体だけ吸い出すこともできる。残った液状の部分は瓶で保存し、次の仕込みに使える。辛くなるからキムチはともかく他の漬け物には使えないし飲むなど思いもよらない。

参考リンク

Brad Makes Fermented Hot Sauce | It's Alive | Bon Appétit
Weapons Grade Hot Sauce 付け足り: ホットソースを使う料理に飽きたのと寒くなったのとでしばらく冷蔵して使わないでいたら、二つのスクイズチューブの一方の液面にカビが生えていた。しばらく使わない場合蒸留酒か何かを少し注いだ方がいいかも知れない。

2019/08/29

紀州犬

近所に紀州犬を飼っている家があるが、あまり散歩に連れて行っていないらしい。初めて会った時は他所のおばあさんが散歩させていた。仔犬のさちが寄っていこうとするとその人は「餌が来たと思ってパクっとやるかも知れない」と言っていた。そんなこともないと思うが、他所の犬を預かっている身としてはそう言って断るしかないだろう。その後も幾度かその人が散歩しているのを見かけたが、それ以外の誰かがやっているのを見たことがない。まあ時間帯やコースが全然違えば全く会わないでも不思議はないが。今は家も知っている。一日分か半日分かステンレスのボウルにすごい量のドライフードが入っているが太ってないのでそれなりに運動はしているらしい。さちが仔犬の頃既に成犬だったのだから13にはなっているはずだ。しかし最近二回ほど声をかけても小屋から出てこなかったから、病気なんじゃないだろうか。

中型日本犬としては甲斐犬が自宅近辺で二頭飼われているし、名前だけ知っている犬や名前も知らない犬も三頭あまりいる。しかし紀州犬はほかに砧公園に来ていたやまと君くらいしか知らない。

むかし研究室で秋田犬とされる犬を飼っていた。そのころ全く動物に触れない懲罰隊みたいな班にいたので犬舎には全く寄り付かなかったし、犬のことも授業で教わることを除き何も知らなかった。後に聞いた話ではヤクザが大学病院に連れてきて、心臓の奇形のため長くは生きられないと診断されて置いていったのだった。しかし立派に育った。秋田とは言われていたが、今考えると紀州犬だったろう。今見知っている秋田犬たちとは顔も体格も違う。毛色も白だったし。ともかく可愛い雄犬で、心臓が悪いとも知らずよく散歩に連れて行って走ったりした。卒業生が訪ねてくると真っ先にその犬がどこにいるか聞いたものだ。

付け足り: やっぱり近所の紀州犬は二月頃死んでた。書き忘れていたけど、飼い主の家の人がろくに散歩に連れ出さないのでその人 (お婆さん)が散歩させている、とその犬を見知ってから間もなく近所の犬仲間から聞いていた。

2019/08/25

好かない犬種

いちいち犬種名を挙げないけれど、個人的に好かない犬種というものがある。遺伝性の奇形に始まりその健康上問題である特徴を残したまま継代されている短吻種とか、トイブリード (抱き犬) ほか猫と背比べするサイズの犬種全般とか、犬種でさえないが人気で高く売れるため作出され続けているある種の犬たちとか。

でもこれは犬種や犬種みたいに扱われているものとか、あるいは意図的なハイブリッドに対する感情なのであって、もちろん個々の犬にはなんの責任もないし、犬種としては好きではなくとも個体に対し分け隔ての気持ちは全くない。

しかし名前や性格をよく知っている和犬の数が多いのに対して、数は多いのに一匹だに名前を知らない犬種もある。小さくてこちらの柴犬を見ると神経質に吠えることが多く、近づきになるチャンスが少ないせいもある。いかした雄をみると「イケメン」とかオベンチャラを言うが、これはまともなサイズの和犬など北方犬種にしかつかわない。

2019/08/23

犬用ザワークラウト

犬にも発酵食品が癌予防の効果があるというから、犬用にザワークラウトを低塩・スパイス抜きで、小さめのキャベツ半玉だけ仕込んだ。何しろうちの犬の幼馴染のなっちゃんも同じ頃遊んでくれたグラちゃんもコキチ君も悪性腫瘍で死んだので。

Sauerkraut for dogs
赤キャベツ一個を仕込んだ直後

Sauerkraut for dogs
仕込んだ二日後
まだ数日は盛んに発泡してパンパンに膨らみ、毎日のガス抜きを要する

普通はおよそ 5mm 幅に包丁でザクザク切るんだけど、これは 0.5mm にセットした小さいセラミックスライサーで苦労して刻んだ。しかし、時間がかかる上にこのスライサーで小さくなった野菜を切るのは危険なので、1/4ほどは包丁で刻んだ。結果は元のキャベツの嵩にくらべて見た目がすごい量になり、重量比1%の精製塩を計ったものの、これで足るのか心配になり岩塩を少しガリガリと追加してしまった。ストルバイト結晶の出る傾向があるのにこれは全く余計なことだった。

ボウルで塩もみしてジップロックに入れさらに揉んだが、数分で劇的に嵩が減り汁が出た。今冷蔵庫にあるのは十日も29℃を下回らない台所で発酵させてえらく酸っぱくなったので、今度のは六七日でガラスジャーに移し冷蔵する予定。与える前に汁を軽く絞ってやればいいだろう。犬が食べることは以前試してある。他に生の納豆も毎日少しづつ与える。

追記:数ヶ月前から毎食にトッピングしているK9ナチュラルのグリーントライプも今袋を見ると乳酸菌の保証値が書かれていた。しかしこれ蛋白質が多く当然リンも多い。ザワクラの分は減らせるな。

追記2:今度作ったのはそのままトッピングしたのでは食べなかった。ブレンダーで細かくしてドライフードと混ぜ、残せないようにして与えている。

追記3:一番下のリンク先によると、ストルバイト結晶生成を妨げるには蛋白質が少なめで、ナトリウムが多めの餌が良いという。ナトリウムが多いと犬がよけい水を飲むからと。水をよけい飲ますには他に手がある (ドライフードを入れる器を二つに分け、片方に水を注ぐ) のでわざわざ増やそうと思わないが、ザワクラの食塩分については気に病まないことにした。

追記4:無論犬用はスパイスなしで漬けるが、キャラウェイは犬には良くないらしい。念の為。

追記5:最後に漬けたものの残り。



例によってZiplockで漬けてガラスジャー (これはスーパーで売っている瓶だけ耐熱ガラスで蓋はプラスティック) に移して冷蔵したものの残り。1%の精製塩・スパイスなし・毎日蓋を開けて少量消費にも関わらずカビはない。キャベツ外葉の落し蓋と開閉の都度パストリーゼをワンストローク、蓋内面と瓶内部に一度に吹くせい。


犬にザワークラウト
Can Dogs Eat that? Sauerkraut
Can Dogs Eat Sauerkraut?
Can Dogs Eat Sauerkraut? (How Much, is it Good, Bad or Toxic?)

Fermented Vegetables: Finicky Pets Might Not Like This Superfood, But It's a Potent Cancer Fighter
Fermented foods for dogs!
Fermenting Vegetables for Dogs’ is a Simple and Easy Way to Improve Your Dog’s Health

ストルバイト
Struvite Crystals in Dogs

2019/07/31

ビートクワス

クワスに関して英語で検索していると "beet kvass" なるものがやたらとヒットする。最初ビートを加えたクワスかと思っていたが、どのレシピも基本はビートと塩と水で作るものだ。 黒パン (またはライ麦の麦芽) と水から酵母菌の発酵で作るクワスと違い、穀物は使わないし塩を使い乳酸発酵で作るところは漬物のようだ。一度それで作ってみたが、色といい塩辛みといい酸味といい、薄目の梅酢を飲むようだった。これのどこがクワスなのか頭をひねるがわからなかった。たぶんクワス同様に東欧由来の飲み物なんで、非スラヴ系の英語国民に聞いてみるだけ無駄らしい。オリジナルのビートクワスのレシピは "russian beet kvass" で検索すると沢山見つかる。

このサイトによると英語圏でのレシピは必ず塩を使っているが、ロシアでは砂糖を使うんだそうだ。しかもライ麦パンも使うと。ポーランドでもそうらしい。その辺がクワスと縁もゆかりもない代物が英語で beet kvass と呼ばれるゆえんらしい。おまけに塩を使ったものは不味いとまで書いてある。だいたいビートは酸味があるだけでなく風味が土臭く、料理に工夫がいるようだ。

What do beets taste like
Beets taste
ロシアでの砂糖を使うレシピ
「ポーランド生まれの祖母の作り方」
ビートクバス:有用な性質と禁忌

YouTube 動画
Russian beet kvass
Brad Makes Beet Kvass | It's Alive | Bon Appétit
↑↑↑塩や香辛料を入れて漬けている。Brad は手が染まらないようにゴム手袋をしているが、水で洗えばほぼきれいに落ちる。

たまたまコンビニの野菜売り場でビートを売っていたので買ってきて作ってみた。スーパーでも一個だけみつけた。アマゾンジャパンでもキロ単位で売っているが、「ビーツ」で検索しないと出てこない。コンビニやスーパーで見つけるのは難しいし、あっても二個かそこらしか置いてないが、値段は巨大な一個が二百円かそこらだ (最近スーパーで買ったら500円近くした)。最初製糖用の甜菜とどう違うのかわからなかったが、このビートは和名を火炎菜、俗にテーブルビートともいい、甜菜はその亜種だそうだ。皮しか赤くない赤カブ (二十日大根) はバラ類で、ナデシコ目ヒユ科フダンソウ属の前二者とは全く違う。

クワス用の10リットル発酵タンクは買えたビートに対して大きすぎるし、3リットルの分析化学溶媒の入っていた耐圧瓶は口が狭いので1cm角以上のビートは入れるのに苦労する。出すのはもっと大変だろう。仕方ないから OXO の乾物用コンテナを使った。これは各サイズを穀粉や調味料のほか犬のドライフードにも使っている。半端な気密なので1リットルとか液体を入れて大きく傾けると漏れる。

巨大なビートを三個、1ないし2cm角に刻み、1リットルの水と大さじ一杯の岩塩を加えた。あとスターターが要る。ザワークラウトは今ないし、クワスは酵母菌だし、ライ麦全粒粉とドライイーストで作ったPETボトル入りのパンケーキ用スターターは一ヶ月も冷蔵庫内に放置されて乳酸発酵に切り替わっていそうなので、それの上澄みと、念のため生菌をうたう乳酸菌飲料カゴメの「ラブレ」を少し注いだ。ザワークラウト同様一週間くらい発酵させるので、一日かそこらで冷蔵して飲むクワスと違い、器具の殺菌に気を配らなくてはいけない。まして塩抜きでは。

OXO コンテナのレクタングル ミディアムではほとんど一杯になり、ザワークラウトでもあることだが発酵の初期には炭酸ガスの泡が出るので蓋を飛ばしそうで、四角い針金で抑える蓋のついたガラス容器に一部を移したら、そっちの液面に白いカビのようなものが出た。ザワークラウトの時のような消毒を怠っていたのでしまったなあと思ったが数日したら消えた。ガラス容器の方を冷蔵庫で冷やして氷を入れたコップで飲んでみたら、しょっぱ酸っぱくて美味しいとは言えなかった。ビートを小さめに刻んだのと海塩を使えとあるところ岩塩を使った以外レシピに忠実に作ったのに。もっとも粒状の岩塩は同じ体積でもさらっとした海塩より重かったかも。ザワークラウトの漬け汁 (クラウトジュース) は無駄にせず料理に入れたり剥いた大蒜片を漬けたりするが、一度も飲んだことがない。

次は塩は入れず砂糖だけで漬けてみた。クワスをスターターに使い、あるレシピに従い干し葡萄も少し足して酵母菌で発酵させ一週間おいた。やはり酸味が強く妙な味でストレートで飲める代物じゃない。ミネラルに富んでいて体にいいと思うので、炭酸水で割って蜂蜜を加えて飲んでいる。大きく切ったビートは再利用して二度か三度漬けられる。残ったものは煮物にぶち込んだが、まだ酸っぱい味がする。次からは二回使ったらビートは捨てた。

ワープロ

字が下手糞で書き方も遅く、町田の文具屋のショーウィンドウで中古の和文タイプを見て欲しいなと思ったほどだから、大学の研究室にあったパソコン (当初のは NEC の PC-8801) のワープロソフトにはすぐ飛びついた。まもなく自己流のかな打ちで随意に文書を作成できるようになったし、大学でレポートをレポート用紙にプリントして提出したのは私が初めてだったらしい。

研究室は教授の教授会での発言力で成績悪くても卒業させてもらいやすいという噂と、実際に動物に触れる機会の多いことで、定評ある人遣いの荒さに関わらず学生の頭数にはさほど困らなかった。他の研究室なら外注するような仕事、たとえば英文和文の印刷、学会発表など用の青スライド、各種分析やその他雑用。他の研究室では教授と学生が一緒に戸締まりして帰ったりするけど、我が研究室の辞書に戸締まりという言葉はなかった。連続14日泊まったこともある。

雑用に近い仕事に関しては、学生にはスライド用写真撮影や現像の上手、和文タイプの上手、英文タイプの上手、日本語ワープロの上手などがいて、日本語ワープロに関しては様々なフォームに出来るだけ合わせてドットインパクトプリンターで印刷することで私がピカイチだった。留学から帰った時は速打ちに関してその座は若手に奪われていたし、レーザープリンターも登場していたけれど。

ある時、研究室の予算申請のフォームを印刷するよう言われた。入力してコピー用紙で位置決めし、いよいよ用紙に印刷しようとしたら紙が厚くてローラーに入らなかった。どうにかローラーの位置をドライバーで調整することが可能であったかどうか?できなかったと思う。自分にできることはすべてやったので最後にゲラゲラ笑ってしまい、よくこんな深刻な状況で笑えるなと言われた。アパートで国家試験の勉強中の上級生が急遽呼び出されて和文タイプで打っていた。

かなキーで日本文を打つ人 (かな入力派) は昔はさして珍しくなかったと思う。アルファベットで済ましている人たち (ローマ字入力派) は決してかなキーの位置は憶えないが、かなキー利用者はかなも英数字も記号もすべて憶えてしまう。ただ自己流ではブラインドタッチはできないから速さではローマ字入力派にかなわない。キーボードのFとJ、テンキーの5に付いているホームポジション認識用のぼっちの意味がわからず、ヤスリで削り落とそうと思ったくらい。

でも同じ文章を打つのにローマ字では倍近い手数が要って、タイプする音の割に入力の進みは遅い。手があまり速く動かない自分はこれでいいと思っていた。実際かな入力派でブラインドタッチに習熟するとローマ字入力派にはかなわない速度に達するらしい。自分もかな打ちブラインドタッチの本も買ってはみたんだけれど。

やがてニフティサーブを個人で使うようになると、変換しそこないなどちょっとしたことでかな入力派であることが知れて珍しがられたりした。今ではユーザー全体の一割にも満たないらしい。

2019/07/07

マルブルーは戦争に行った

ウィンストン・チャーチルやダイアナ・スペンサーの先祖であるイングランド貴族ジョン・チャーチルは、18世紀初めのスペイン継承戦争に出征して勲功を立て軍司令官に任ぜられ、初代マールバラ (Marlborough) 公爵に叙せられた。しかし戦争の終わり頃、マルプラケの森に防備工事を施して立てこもったフランス軍を攻撃して敵を退却させることに成功したものの、サヴォイのプリンツ・オイゲンと共に指揮していた英・蘭・プロイセンほかオーストリア帝国隷下諸邦の連合軍は敵に倍する大出血を被った。

この時フランス軍には彼が死んだという誤報が伝わり、喜んだフランス兵は「マルブルー (Malbrough, Malbrouck 等様々な綴りあり) は死んだ」という歌を歌った。きっと既存の歌の替え歌だが、これはいろんな形で出版されたりもし、今に至るまで俗謡あるいは童謡として歌われている。

内容は「マルブルーは戦争に行った。三位一体節までには帰るだろうか、復活祭までには帰るだろうか。しかし復活祭が過ぎても彼は帰らない。奥方は城の高い塔に登って帰りを待った。すると彼と共に出征した小姓が帰ってきた。奥方は呼び掛けて彼の消息を尋ねた。小姓は答えてマルブルーの旦那様は戦場で死んで葬られました云々」というもの。

Malbrough s'en va-t-en guerre

マールバラ公は新しい兵站方式を採用して軍の移動を速くするなど軍事に天才を発揮したが、金に汚かったといわれる。それを政敵にあれこれ告げ口されて軍司令官は解任された。フランス俗謡のマルブルーも戦争で一稼ぎする目的で出征する兵士のように描かれている (らしい) 。

この歌は米国では再度歌詞を変えられて "For he's a jolly good fellow"という、親しい人を歓迎したり誕生日を祝ったりする際の歌になっている。

For he's a jolly good fellow

野猫の餌やり

近くの大きいマンション群に付属する遊歩道には夜八時前後に猫が集まる。東急バス弦巻営業所の裏に犬仲間が集まっていた頃は、十年間毎晩のように犬を連れて通っていたが、大抵二三匹は目に入った。明らかに餌やりが行われているが、一昨年までのところやり方は巧妙で、現場を見たことも放置された餌や容器を見たこともなかった。暗い中でベンチにじっと腰掛けている人が怪しいかな、と思ったくらい。

その後猫の数が増えてきた。一昨年のある晩には八匹まで数えたこともある。住民も苦情を役所に訴えたのだろう、禁札が数ヶ所に掲示された。とうとう去年くらいから自転車の前後の籠に餌を積んで餌やりをしているおばさんに出会った。こういう人は数箇所の公園をハシゴして餌を置いているようだ。また植え込みの後ろにドライフードや水を入れた容器を朝見つけるようになった。どうもどこそこで餌やりができるという話が伝わると、猫だけでなく餌やりをしたい人が集まるようだ。川柳の「通り抜け無用で通り抜けが知れ」じゃないが、彼らに対して禁札なんかそういう効果しかない。

2019/07/06

コンキスタドーレスと犬たち

ラス・カサス神父の「インディアスの破壊に関する簡潔な報告」というスペイン国王に対する訴えにはスペイン人征服者達が大型の猛犬を使って先住民を征服・奴隷化するだけでなく、犬を養うのに先住民の死体をもってしたということが書かれている。

Alano Español
スパニッシュ・ブルドッグまたはアラノ・エスパニョール

パナマ地峡を横断して太平洋を「発見」したバスコ・ヌニェス・デ・バルボアは、最初のパナマ地方への探検航海に参加したあとイスパニオラ島で入植したが、農場経営に失敗して債権者から逃げるために飼い犬のレオンシーコ (Leoncico、小さいライオンという意味) と共に大樽に潜んで、マルティン・フェルナンデス・デ・エンシーソを隊長とする探検隊の船に乗り込んだ。隊員に協力者がいたんだろう。しかし隊長は彼らを見つけ、次に通りかかった無人島に置き去りにすると脅した。しかし彼の地峡周辺の地理に関する知識と経験を知って同行させることにした。

contraband

レオンシーコはスパニッシュブルドッグであったと言われ、父犬のベセルリーリョは既に探検に参加して数多の手柄を立て有名だった。獰猛で捜索能力に優れ、平和的な目的で来た先住民と害意を隠した先住民とを正しく見分けたといわれ、先住民は犬無しの百人のスペイン人よりもベセルリーリョを連れた十人を恐れたといわれた。レオンシーコも強く賢い犬で、彼を伴った十人のスペイン人は彼なしの二十人の者たちより手柄を立てたと言われる。のちに嫉妬から毒餌を食わせられて死んだ。持ち主のバルボアもエンシーソにとって代わって彼を本国に放逐したりしたせいで恨みを買い、邪魔されなければインカ帝国の征服者となれたかもしれない探検に出る前に反逆罪の名目で逮捕され処刑された。

2019/06/28

サンパウロの雨傘

ブラジルのサンパウロ (São Paulo) は標高 800m 近い高台にあり、そのせいで一日のうちに四季があるというほど天気が変わりやすい。他の地方のことは憶えていないが、そのせいかサンパウロではちょっと変わった傘が使われていた。男物は三段たたみの黒い折りたたみ傘で、ハンドルは鷲のくちばしみたいな、あるいは「心」という字の二画目のような形をしていた。材質はプラスチックだろうが、普及品はそれを豚革みたいな型押しをした黒いビニルレザーでくるんで縫い込んであった。高級品は革を使っていたと思う。

女物は形は日本で普通のものと一緒の非折りたたみで、色柄は様々だが地味な色が多かった気がする。特徴はハンドルの元と石突きの元にそれぞれ金属の輪がついていて、両方を薄い細い革ベルトで繋いであった。傘を開きハンドルの先端を前向きに持つと傘の縁から革ベルトが垂れ下がり、緩やかなカーブを描いてハンドルの元に繋がる。これは携帯の便のためで、雨が降りそうな時は革帯を小銃の負い革のように肩に掛けて携帯する。雨が止んだ後傘が乾いたら同様に担ぐようだ。初めてこれを見たのは大学寮であるクルスピ (CRUSP, Conjunto Residencial da Universidade de São Paulo) と時計台のある管理棟 (当時は大時計は盗まれた後だった) との間の広い原っぱを学部研究棟に向かう時で、向こうから来る女性が傘をさしていて、妙なものが顔の前にぶら下がっているので近眼でもあるしつい凝視してしまった。向こうは紐を見ていると思わないでにっこりと微笑みを返した。

サンパウロには起伏が多く、ピニェイロス (Pinheiros) とティエテ (Tietê) という川があるが、どっちも市内では下水道システムの一部になっていて汚く、ピニェイロスときては昔流れていたとは逆方向に、わからないくらいゆっくり流れていた。昔の姿は想像できない。幹線道路は別として側溝のない道路が多い。一見日本の側溝蓋みたいな断面がL字型のコンクリ製品が両サイドに続いているが、しかし下に溝はない。ある日強い雨のなか傘をさして坂を上っていたら、その溝ともいえない浅い溝を水とともにミネラルウォーターの空きPETボトルがすごい勢いで流れて来る。通行人は他にいない。飛沫でズボンを濡らしながら頑張って歩いていたら、ある大きなビルの大きいポーチというか車寄せで何十人という人が雨宿りしていた。そんな雨の中を無理して歩いた方が馬鹿みたいだ。ブラジル人は暇人が多い。学内で立ち話を始めた二人が30分経ってもまだ立ち話をしていたりする。立ち話もなんだから喫茶店へでも、という習慣はないからそういう喫茶店はない (日本人が長く立ち話をしないのは腰が弱いからだという説もある)。

日本では、出先で降られて駅前の洋品店で仕方なく買った安物を除いて、ずーっと自分の傘を自分で選んで買ったことがなかった。たいてい家族の誰が使っていたか判らない物を使っていて、しかも自分専用に使っていても誰かに壊されることが多かった。数年前、アマゾンジャパンで国産の男物の傘を買った。小骨16本で1万数千円した。これに、以前犬に引きずらせる目的で買った手芸用の布テープで石突きとハンドルとを結んでサンパウロ式に使っている。普段は石突き側のループを抜いてハンドルに巻きつけておく。

高校通学で雨に濡れることに慣れ、大学在学中に登山を始めてからは街場で濡れるのは平気になってしまった。いい服は着ていないし、九割以上の人が傘をさす状況で帽子かパーカのフードだけでしのいでいる。だいたい自転車では使えない。だからせっかくの高級傘も梅雨になってから二回しか使っていない。

2019/05/05

自転車乗りの滑稽な用語

ダート:斜面を重機で掘ったり均したりして道を形づくった、あるいは林間に自然にできた、土くれや石や上から落ちた岩が残っている道の事だが、自転車乗りはアスファルトや敷石などで舗装していない土や砂利の道は何でもダートと呼んでいる。
例えば河川の堤防の上の道路だが、あれは堤防を保守する車両が通行できるように土を盛った堤防上に砕石を敷いてローラーで転圧舗装したもので一種の舗装道路なんだが、自転車乗りはダートと呼んでいる。

ガレ場:昔の猟師の言葉で、沢の最上流部である源頭の岩や角の取れない石で覆われた急斜面のことだが、自転車乗りは大きめの小石がゴロゴロしていれば傾斜の有無に関わらず、道でさえガレ場と呼んでいる。初めてそれを読んだ時には、ええっ?あんな所を自転車で?凄いな、と無駄に感心してしまった。

ハンガーノック:事前の食事に対して運動で消費した熱量が大き過ぎ、登ったり漕いだり走ったりする力がなくなってくること。ただの疲労によるバテと異なり、休んでも力が戻ってこない。しかしこれには登山者の間で昔から使われてきている「シャリバテ」という立派な用語があるのだが、自転車乗りは知らないものだからカタカナ語を使っている。

落車:自転車に乗っていて転倒することをカッコよく表現する言葉。明らかに「落馬」からの造語で、競輪から来たものだろう。しかし自分の意思を持ち自立する馬からは落ちることも可能だが、乗り手よりずっと軽く低い自転車から落ちることはできない。

2019/04/07

クワスを作る試み

クワス (kvass) はロシアやウクライナ周辺の東欧で大昔から飲まれる低アルコールの発酵飲料で、本来はライ麦から作る黒パンの固くなったものから、今では工業的にはライ麦の麦芽 (モルト) を主原料として作られる。PETボトル詰めでも高価な銘柄はライ麦麦芽と甜菜糖を発酵させて作るが、安いものは同様な原料と炭酸ガスで発酵によらず作るようだ。Ochakovskiy のを買ってみてラベルの原材料欄を見ると、"water, sugar, malt concentrate (rye flour, rye and barley malt), east(ママ)"となっている。またウェブサイトでは乳酸菌発酵も行い、パンから作る伝統的クワスの風味に近づけていると。

もっともクワスという言葉の語源はもともと酸っぱいもの、発酵した飲料という意味で、最も普通に意味する黒パンを使ったものは bread kvass などとも呼ばれる。フルーツを一緒に発酵させることもごく普通のようだ。

Kvass brands
様々なブランドのPETボトル詰めクワス

ナポレオンのモスクワ遠征を兵士たちの視点で描いた実録「1812年の雪」で初めて知り、ツルゲーネフの「猟人日記」に繰り返し出てくるので気になって作り始めた。

家庭で作るには何種類か方法がある。
1.スライスした黒パンを小さく切ってトースターで長めに焼いて焦がしたものを水に漬けて砂糖を加えて発酵させる。使う発酵容器の口のサイズによっては往々大きいクルトンぐらいのサイズ。
2.工業的に糖化などと濾過・沈殿を済ませてから透明な茶色いエキスに濃縮したものを買って水で薄めて発酵させる。
3.乾燥させて粉末にした製品を買って湯で溶いて (必要なら砂糖を加えて) 発酵させる。このタイプの製品は製法がよくわからない。

1が最も伝統的な製法で、黒パンはサワードウといって乳酸発酵させた生地を使うので乳酸菌と酵母菌が共に働いている。欧米の都市ではライ麦全粒黒パンが手に入りやすいらしく圧倒的に黒パンで作る場合が多い。しかし日本では身近に作って売る店はほとんどない。アマゾンジャパンで売られているものは送料がかかる。クワスを作るために自分でわざわざパンを焼くのはどうみても間尺に合わない。クワス材料として手を省いたバージョンならありかもしれないが、幾ら検索してもそんな例は見つからない。一度市販のライ麦のクリスプブレッドで作ってみたが失敗だった。ドロドロになってほとんど沈殿せず歩留まりがかなり悪くなった。

そこで日本ではたいていの場合出来上がりの味は本格的とは言えないが2か3の方法で作るしかない。とろっとしたほとんど透明褐色のエキスと粉末のものとでは糖化や濾過など加工の程度が違うと思われる。これを利用して家庭で作る際も黒パンを加えたりする。以下、3の方法で酵母菌発酵で作る方法について述べる。発酵時間は季節にもよるが一昼夜か二昼夜。

最初はアマゾンジャパンでライ麦麦芽加工物と甜菜糖の混合物とイーストのセット (квас домашний、クヴァス・ダマシュニ、domestic/home kvassの意、下の写真、ただし全く同じ言葉を使った別ブランドが複数ある) を買って作り、最初は美味いとは思わなかったものの買った分を作っているうちに要領もよくなり美味しく思えるようになった。ビタミンB群が豊富で、液糖入りの清涼飲料を飲むよりはるかに健康的。レーズン他の果実を入れても風味がよくなるし、気に入らなければ普通の炭酸飲料で割って飲んでもいい。実のところ、そのまんま飲むことはあまりない。手間暇かけたものをすぐ飲み切るのが惜しいから。たいてい炭酸水を20%ほど加えて甘味と風味を10%程度のデカビタCのような清涼飲料で補う。蜂蜜を使うこともあるけど冷い飲み物には容易に混ざらないから、温湯で溶いたものを製氷皿で凍らせて氷代わりに入れたりする。

その後五個入りを二つ注文したが、それでも出来上がり500ccあたりの送料込み費用は84円と、PETボトルの清涼飲料水をスーパーやドラッグストアで安く買うくらいの費用であり、手間暇その他を考えるとかなり高い。容器はありあわせで済んだとしてもだ。国内市場に競合製品も競合輸入元もないから仕方ない。今はもう輸入されていない。前回輸入分は消費期限までに売りきれなかったようだ。

квас домашний
リンク先は輸入元のサイト
楽天でも買えたし、この輸入発売元から直接まとめ買いをする方が安かった。

10リットルのタンクを使った一時期を除き、むかし大学から持ち帰った密栓できる容量3リットル (4リットル近く入る) の褐色ガラス容器 (高速液体クロマトグラフィー用有機溶媒の空き容器) で作る。沸点が35℃と低いジエチルエーテルなどにも使うもので、強炭酸水用 PETボトル以上の耐圧性はある。夏にジエチルエーテル入りの瓶の横腹を指で触るとまもなく触ったところの内側で発泡が始まるくらい。

市販の炭酸飲料やビールと違って澱 (それにたぶん糊状の澱粉) を含むので、同程度の圧力でも開栓時の泡の湧きが急速だ、だからいつまでも密栓状態で室温に置けないし、十分発酵の進んだものは冷やしてから開栓しないと。説明では出来上がりにザルで濾すように書いてあるが、それではレーズンしか濾し取れない。結局炭酸用PETボトルに小さい漏斗を刺して上澄みを注いだ。冷やしたのを PET からコップに注ぐ時にさらに底に溜まった澱を残す。保冷ボトルに入れて密栓し犬の散歩に持っていって開けると動揺で発泡していて開栓時に大きな音がする。

アルコール分はレーズンなどを多めにを加えて少し長く発酵させると1%前後になるようだ (前々世紀の遺物である馬鹿臭い酒税法は製造免許なしでアルコール分1%以上の飲み物を作ることを禁じているが)。 発酵に適した温度は36℃くらいと考えていたが、22-24℃くらいが理想的だそうだ。最初作った時は手持ちの耐圧PETボトルが少なく、空きが出るまで数日置いたため、アルコールが増えすぎた。その後 Wilkinson の炭酸水1リットル入りを沢山買って空き容器を使った。

またブリューランドという会社のサイトで挽き割りのライ麦麦芽を100g単位で買えるので、ここで10リットルの発酵容器をライ麦麦芽やビール用イーストなどと一緒に買った。これで安く沢山作れると思ったら大間違い。クヴァス・ダマシュニの原材料のライ麦麦芽というのは単に麦芽を細かく挽いたものと考えていたが、そうではなかった。ただの挽いた麦芽だと思って同じ重量比の挽き割り麦芽を同様に仕込むと、穀粒を含んだずっと多量の澱が発生する。全粒やその挽き割りでなく麦芽を使うからには麦芽が含む酵素を使ってある程度糖化してあるのだろう。砂糖を加えるところからしても完全な糖化はしていないと思うが。

それでビールの醸造方法を参考にライ麦麦芽の糖化を試みた。穀粒中の澱粉や蛋白質は酵母菌が利用できないので、麦の発芽で生じたプロテアーゼやアミラーゼのような酵素がそれぞれ活発になる温度に麦芽を入れた水を保温し、それぞれ30分ほどかけてアミノ酸と糖に分解させる蛋白休止と糖化 (mashing) というステップを踏まなければならない。そのためには鍋をそのまま漬けられるような大きい恒温槽か無段階調節のできる電熱器のようなものを使うか、さもなきゃレンジを使ってひっきりなしに鍋を上げたり下ろしたりして一時間の間ほとんどつきっきりでいないといけない。ガスなら無段階だからいい火加減を見つければ (必要なら鍋底を少し火から遠ざけたりして) うまく手を省けるかも知れないが、うちのような IH レンジじゃ無理だ。また鍋を浮かしたらアラームが鳴って加熱を切られる。

それからできた麦汁 (ばくじゅう、wort) を濾し (それが一番搾り)、スパージングといって穀粒に温水をかけてできるだけ糖分を回収する。これも台所の道具じゃかなり手間をかけてもあまり回収できない。それを殺菌や残った蛋白質の固化などの目的で一時間ほど煮込んだら、遠心分離で澱をすっかり除く。

Sandor Elix Katz の 「天然発酵の世界 (Wild Fermentation)」の「マッシング:モルトからビールを作る」項目によると、最初70℃程度にした湯にモルトを入れ、調整して50℃になったら20分その温度に保ち、次いで60℃にあげて40分保ち、それからまた71℃に上げて一時間、それから77℃に上げてから濾す、その間20分ごとに温度をチェックして2℃以上下がっていたら温める、と書かれている。濾過とスパージングはざるでやると。これだと最初に湯を用意してから二時間半はかかるだろう。これは8リットルの場合なので、5リットル以下ならずっと頻繁に様子見をして加温しなければならない。3リットルを糖化したときは台所に椅子を持ち込んでレンジのそばで本を読みながらやった。

BIAB (Brew in a bag)という鍋の内側にぴったりするような食品グレードのメッシュ袋の中で糖化してそのまま吊り上げて汁を切る方法がホビイスト向けにあるが、市販ビール並にきれいに濾過できないかぎり数日で消費できる分量しか一度には作れない。澱を含んでいるといくら冷やしてあっても開栓と同時に中身がほとんど吹き出してしまうから (これを防ぐには十分に空間を残して詰め、開栓時には少し緩めて泡がキャップに達する前に締め、数分してからまた緩め、を何度も繰り返さないといけない)。コールドクラッシングといって、氷点近くまで冷やすと沈殿が促進するらしいが、まあ炭酸は諦めてガスが溜まらないような容器で発酵させる手はあるし、本来クワスとはそうした物なんだろうけど。

素人のビール醸造用に各種の材料から作る茶色く透明な濃い糖化済エキスを缶やプラ容器やレトルトパックで売っているが、英語圏で二三銘柄通販しているライ麦モルトエキスと称する賞品は、ある種のビール用なのでライ麦は原材料の20%程度で残りは大麦だ。しかし最近検索していて eBay でロシア製などの粉末状発酵用ミックスが四種類ほど売られているのをみつけた。"kvass wort"で検索すると液状のエキスも見つかる。PET ボトル詰めクワスは"квас"で検索すれば沢山ヒットする。

粉末だと思って Gera GIRA というリトアニア製の紙箱入り製品を買ったら、出来上がり3リットル分の袋入りドロッとしたエキスが三つ入ったものを三箱買って、出来上がり分量あたり先にアマゾンジャパンなどから十個まとめて買った製品と変わらない値段だった。4個買えばもっと安く送料は何個でも無料だ。しかし3リットル当たり砂糖を150gも入れる。ビクトリアで輸入していたものも内容量のほとんどは砂糖だったかも知れない。澱はやっぱり出るがビクトリアで輸入していたものよりはるかに少ない。

KVASS RECIPE
Angelina’s Easy Bread Kvas Recipe
How to Make Kvass

2019/02/19

フェジョン

ブラジルで毎日ご飯と同じ皿で一緒に食べる、日本でいう味噌汁のような煮豆を作ってみた。

Arroz com feijão

大学寮の食堂で週5日×2食ご飯と一緒にこれを食べた。この食堂のおかずはたいてい固い冷凍牛肉であり、時々フライドチキンやソーセージになる。牛肉は不評で、チキンやソーセージだと皆行こう行こうとなる。私は毎日牛肉が食えるなんてと喜んでいたが。しかし煮豆だけは悪く言う人がいなかった。日本でいう汁気のない煮豆と違って汁が多めで、カレーライスのように食べる。豆はフェジョン (feijão、後ろにアクセント) といっていんげん豆の一種。休日に観光地に行って雨が振り、安ペンションの客の一人が「せっかくの休みが台無しだ」というと親父が「神様のお陰で雨が降るからフェジョンが育つじゃないか」と言っていたくらい主要な食品だ。

ただフェジョンといっても黒いの茶色いの白いの白茶のマーブル模様のと色々ある。黒いのは主に名物料理のフェジョアーダで使う。字義通りにはフェジョンの料理という意味だが、こちらは干し肉や豚のアラを入れた元々は奴隷の食事だったとされる料理だ。すごく脂気と塩気が多いので、主に街の食堂やレストランで水曜日に限定して出される。食べると眠くなるから週一なのらしい。初期の日本移民がブラジルに着いた時これが出された。クタクタに煮た豚の皮をこんにゃくと思い「おや、このこんにゃくには毛が生えている」なんてこともあったらしい。毎日たべる方の煮豆はただフェジョンというか米飯とあわせてフェジョン・コン・アホース (com arroz) という。

最初アマゾンジャパンで缶詰を買って食べてみたが、昔食べたのに比べて肉っ気も香味野菜も少なく満足できなかったので、同様にボリビア産のフェジョン (乾物) を1キロ買った。他に必要なのは玉ねぎとにんにくとローレル (ベイリーフ) をはじめとした香辛料。それに仔牛などの骨か、代用として出来合いのインスタントブイヨンとオリーブオイルと塩。また風味を良くするためのソーセージやベーコン。スプーンで食べるものだから肉などはごく小さく切って入れる。香辛料のどれをどれだけ使うかはレシピによりかなり違う。

豆は夾雑物を取り除き水に一晩浸す。鍋に入れて豆の上6-7cmほど水を入れてローレルを一二枚入れ、骨か何かでだしを取るならそれも入れて蓋をし、50分前後煮る。細かく刻んだにんにくと玉ねぎをオリーブオイルで炒める。七八分通り煮えた豆をスプーンに数杯すくって皿などの上でスプーンでよく押しつぶし、鍋に戻す。炒めた玉ねぎなどを加え、切ったソーセージなどを加えて弱火でもう30-40分ばかり煮る。香味野菜として他にコリアンダー (パクチー) の葉もよく使われる。トマトやバルサミコ酢を少し入れる場合もあるようだ。

ご飯も日本のように炊くのではなく、玉ねぎとにんにくをとても細かく刻んだのを鍋のオリーブオイルで炒めてから洗った米を入れ、水を足して茹でる。だいたいできたら水を調整して蓋をして炊く。面倒なんでブラジルにいるときでも土日に会食がなく一人で缶詰などで食べる時は日本式に炊いていた。当時、ブラジル人は米でも豆でもカップで計らず、テーブルの上に多めにあけて手で大体の量を分けて残りは袋に戻していた。小石とかが入っていたころの名残りらしい。

さて、豆の量はカップで計ったが、水の量は豆が何インチかぶるというのを参考に適当だった。にんにくは瓶詰めの刻みを、ローレルはザワークラウトに使うつもりで買って開封していなかった大缶入り粉末を使い、だしはオーサワの野菜ブイヨンの液状のを使った。ソーセージはシャウエッセンを二本。小さめの玉ねぎを一個刻んでしまったので水に漬けた一食分の豆に対して多すぎ、翌日分としてまた豆を浸した。

一回目は水がやや少なく、豆がきもち固く、塩その他の味がかなり濃かった。時間を食うので次から圧力のかかる電気炊飯器を使おう。

2019/02/14

マサラチャイ

ロイヤルミルクティーってイギリスかインドから来た言葉だとずっと思っていたが、そうではなかった。日本の飲料メーカー、正確には紅茶輸入販売会社がでっち上げたものらしい。英語で検索してもほぼ必ず日本のものと紹介されている。

ロイヤルミルクティー

十数年前、世田谷通り沿いの「スパイスマジック」へラーメン屋にでも行くように週二三度食べに行っていた頃、初めてロイヤルミルクティーを注文すると、ネパール人のコックが自販機で売っているのと違うけど大丈夫?と聞いた。アルミみたいな小鍋でミルクと香辛料を入れて作っていた。ウェブ上のロイヤルミルクティーのレシピにインド風に香辛料を使う記述はないのでマサラチャイというのが正しいんだろう。

いまは自分の家でステンレスの小鍋で水と数種の香辛料とアッサム茶と牛乳とで冬の朝の散歩用に作って、350cc入る真空断熱ボトルに入れて持っていく。家でも時々飲むが、いずれにしてもカップ一杯分 (140-160cc) だけ作るのは手間的に合わないのでその倍以上作る。最初出来合いのチャイマサラミックスを使っていたけど、茶濾しが目詰まりしやすいし、ボトルの底の方が粉っぽくなるしで今は別々に買ったホールの香辛料で作っている。時間がない時は無印良品のインスタントのマサラチャイで作る。

ほとんどのレシピで使っている鉄板香辛料はシナモン (カシア)・カルダモン・クローブの三つで、あとだいたいのレシピでは生姜と黒胡椒は使う。下の動画では黒胡椒を使っていないが、コメント欄で何人もの人が黒胡椒を入れないの?とか忘れているよとか指摘している。他に使われるものに、フェンネルシード、ナツメグ、たまにスターアニス。私は悪い癖で、何かのレシピで使っているのを見た物は何でも入れている。それにヒハツモドキ (ヒバーチ) も。

スパイスのうち、カルダモン・クローブ・生姜・黒胡椒は乳鉢である程度潰す。たぶんスターアニスも。石の乳鉢は内壁に三次元曲面部分が多く垂直部分が少ないデザインだと力を入れて叩き潰すことがしにくい。スパイスが飛び出してしまうから。その場合押し付けるようにして潰さないといけない。

淹れ方は、だいたい出来上がりの半量の水にスパイスを入れて沸かし(沸かしてから入れる人もいる)、それからアッサム茶 (CTCという粒状に丸まったもの) を普通の紅茶よりかなり多めに (倍近くかもっと) いれて一分ないし十分弱火で煮出し、それから最初の水と同じくらいの牛乳と好みの量の砂糖を入れて火を強め、沸騰しかかったら止めて濾す。茶葉より先に砂糖を入れる人もいる。

S&Bによるマサラチャイのレシピ

ほぼ同様な作り方のマサラチャイの動画
これを見てアーモンドミルクでも本格的なものが淹れられると思ったが、それで淹れてみると美味しくない。
別の動画

スパイスマジックは当初オーナーのダルジット・シン氏と日本人の奥さんと二人のネパール人コックがいたが、そのうち他所に新店舗でも出したのかオーナー夫婦は全く姿を見せなくなった。ひと頃オーナーの弟が来ていたが、今は弟とも違うインド人が切り回している。もう全然行かない。

2019/02/02

Martín Fierro (1968)

アルゼンチンのホセ・エルナンデス原作の詩、El Gaucho Martín Fierro (ガウチョのマルティン・フィエロ) とその続編、Vuerta de Martín Fierro (マルティン・フィエロの帰還) を原作とした映画。

El Gaucho Martín Fierro

背景


舞台はアルゼンチンのパンパ地方。この広大でまったいらな平原は土地の肥沃さと充分な降雨量から森林の成長に適していたが、雨季の直前に乾ききった草原に火を放って狩りをする先住民の風習のため森林は消滅していた。そしてヨーロッパ人が牛などの家畜を持ち込んだ結果、家畜が木の芽をかじるため、有毒な樹液など自衛手段を持つものを除き、柵による保護なしに樹木が生育することはさらに不可能だった。そして有刺鉄線の普及までは柵の設置と維持はとても高くついた。ヨーロッパや北米東部では牧柵代わりによく使われた石垣を築くための石もなかった (屠畜場周辺の農場では牛馬のされこうべで垣根を築いていた)。

牛や馬の価格はとても安く、どんなに貧乏なガウチョでも一頭や二頭の馬を持っていた (馬の要らない仕事はなかった) し、牛の群れを輸送する仕事についているガウチョたちが、毎食ごとに一頭の牛を殺さなければ気がすまなかったくらいだ。屠畜場では皮のほか肉と脂肪のごく一部だけを取って残りは廃棄されていた。

ガウチョはアンダルシアほかイベリア半島南部からの古い入植者が先住民や若干の黒人と混血した牧畜民で乗馬が巧みであり、19世紀初期のスペインからの独立戦争では主役であったが、19世紀の終わりには旧時代の遺物のように扱われ辺境へ辺境へと追いやられ、新移民の大波の中で消滅した。原作はこの迫害の中で彼らの名誉を守ろうとしてホセ・エルナンデスにより書かれた。

ほとんどが汽船に乗ってヨーロッパから来た新移民の子孫からなる現アルゼンチン国民は20世紀になってから俄かに彼らを自分たちのアイデンティティとして主張しだした。日本の無知なマスコミは「ガウチョ」を牧童と同じことだと思ってしょっちゅう誤用しているがそれは違う。雇われた牧人や作男を表すにはペオンという言葉があるし、牛飼い (カウボーイ) にはバケーロという言葉がある。またガウチョには富裕な地主たちもいた。

あらすじ


映画は軍隊を脱走したフィエロが荒れ果てて無人の我が家に帰って来たところから始まる。妻子と小さい農園で暮らしていたフィエロはある日酒場にいるところを軍隊の強制徴募にあう。期間は半年という約束だったが、実際には五年や十年の拘束はざらだった。1840年の中央集権主義者と連邦主義者との内戦時に発せられた総動員令で応召したガウチョの中には15年も勤めさせられた者もいた。

昔のアルゼンチンの軍隊生活が描かれる。軍隊の主力は強制徴募されたガウチョで、馬も満足に乗りこなせないイタリアのスラムからの新移民が正規兵として優遇され、ガウチョは危険な戦闘と苦役に長期間従事させられた。彼らに給付される制服は帽子と上衣だけ。腰にはチリパと呼ばれる一枚の布、脚にはボタス・デ・ポトロ (若駒のブーツ) という若駒の脚の皮を使った足先が露出する履物を履き、馬は自弁だった。銃器やサーベルは行き渡らない。固い長い木材が高価だから竹柄の槍、ファコンというガウチョの闘争用の短刀、元々先住民の駝鳥狩り用である三個の金属球か生皮でくるんだ石を皮紐で繋いだボレアドラスという武器を、敵を落馬させるにも打撃にも腕や武器に絡めるのにも使う。つまり先住民の戦士と大して変わらない装備である。捕虜は情報だけ得たら古兵が慰みに苛め殺す。

ガウチョの服装と装備 (ボレアドラスを腰に巻いている)

士官たちは銃弾を横流ししたり給与をごまかしたりして私腹を肥やし、僅かな給与も酒保の親父に天引きされてしまう。給与のことで士官連と揉め、夜酔って帰営した時にイタリア人兵と揉めて厳しい懲罰を食い、嫌気がさして三年目にして脱走して帰宅したが、農場も家畜も売られ妻子は食えなくなって何処かへ流れていったあとだった。自暴自棄になったフィエロは酒場で黒人のカップルをしつこくからかった末、決闘で男を殺してしまう。ヨーロッパでも剣を使った決闘はたいていそうだが、ガウチョにとって決闘は名誉を守る為であって殺すのが目的ではなく、普通は顔を狙う。

そこからフィエロの少年時代の回想になる。多少の資産のあった父が死んで孤児になったフィエロに村長らは、財産は大人になるまで管理してやると言って、手癖の悪いホームレス (映画では壁のある小屋に住んでいるが原作では破れ馬車を家にしていた) の老人に被後見者として押し付ける。原作では色々と独特な処世訓を老人から教え込まれる。

フィエロは、よそでも別の男、顔役の息子を殺してお尋ね者になる。そこから映画は警官クルス軍曹の物語になり、最後は草原で野営中のフィエロを警官隊が囲むが、フィエロの奮闘に感じた警官クルス軍曹が助太刀して警官隊の生き残りは逃走し、二人は夜通し語り合った末、先住民の群れに身を投じようと出発するところで原作本編は終わるが、映画では先住民と暮らす二人やフィエロの息子たち、クルスの息子やフィエロの青年時代と忙しく行き来する。

先住民にも簡単には信用されず厳しい暮らしが続き、結局軍曹は病死し、拐われたガウチョの女性が殺されようとするのを助けて部落を脱出する。ある寄り合いで二人の息子とクルスの息子に偶然出会ったが、一緒に入った居酒屋で最初に殺した黒人の息子に出会う。コントラプントと呼ばれる、二人の男が交互にギターをかき鳴らしながら自分の経験や人生観を題材として即興で詞を掛け合う歌合戦がフィエロと黒人の間で始まる。やがて黒人の父を殺したのがフィエロだと知れるが周囲が止めに入って事なきをえる。四人は集落を立ち去るが、お尋ね者同士一緒にいるわけにいかないと四方向に分かれる。

アニメ版


Martín Fierro

アニメの方は原作によらず映画をさらに部分的にアニメ化したみたいだ。しかし駐屯していた砦と部下とを失ってガウチョの新規徴兵を求める大佐の話は原作にも映画にもない。

日本語訳


玉井禮一郎という方がこの詩を翻訳し出版された。どこかの書店で購入したが、訳者筆頭が大林文彦氏、ついで玉井氏なのでその名で憶えていた。1980年代始めに東北沢駅の近くにあったイスラミックセンター・ジャパンの金曜会で、それからもう一度別のイベントでお目にかかった。その際その本を読んだ事、玉井氏の名前はたしか二番目だったことを言うと、監修してくれたスペイン語文学研究者の大林氏を立てたのだそうだ。

マルティン・フィエロ―パンパスの吟遊ガウチョ

ガウチョに関して読んでみたいと思われる方には、チャールズ・ダーウィンの「ビーグル号航海記」や、ウィリアム・ヘンリー・ハドソンの「遥かな国遠い昔」をおすすめする。

2019/01/26

ジグゾーパズル その1

アフィリンクじゃありませんよ

週刊文春でエッセーを連載している分子生物学者の福岡伸一氏の著書「生物と無生物の間」(やっぱり他誌で連載されたエッセー) を図書館で借りて読んでみた。その中で細胞内の蛋白質の結合のたとえ話に、少し長くジグゾーパズルの話があり、興味を持ってついうっかりアマゾンジャパンで二千ピースのを買ってしまった。二千というと市販されている中でほぼ最大級だ。ただし縦横が普通の半分でピースの厚みも薄いスモールピースというタイプで、フランスの修道院の島モンサンミッシェルの夜景のやつをろくに他の絵柄も検討せずに買い、あと並べかけのパズルをピースを崩さず巻き込んで片付けられるという布を一緒に買った。やりかけで放置したら犬に滅茶苦茶にされそうだ。上に寝そべって掻き掻きするとか。

彼のエッセーを読んで買ったものが他にもある。一昨年の春あたりニューヨークで子供の間で流行っていたというフィジットスピナー (fidget spinner) で日本ではハンドスピナーとか呼ばれている。夏あたり日本でも流行るかもと書いてあり、アマゾンジャパンで検索したら既に色々売られていた。買った動機は母にやらせられるかというものだったが一度も持っていったことがない。

開いてみてすぐ後悔した。ジグゾーパズルなんか百ピース程度のすらほとんどやったことがない。袋に入ったピースは嵩は大したことがないが、小さいから大変な数量だ。とりあえず不織布を敷いた上でピースを選り分けてみた。直線を含む四周にあたるピースから始めるという定石は知っていた。それだけじゃ時間の無駄なので修道院の明かりを含むものを選びだし、色合いによって分けて並べた。

最初は全部を箱に空けて指先でかき回していたが、これもとんだ時間の無駄と気付き、一部だけを箱に空けて探し終わったら別の袋に移すというやり方に変えた。これでもかなり無駄がある。裏返しのピースを表に返して行くが、パズルが入っていた箱の倍くらいの広さの箱があれば、次に別テーマで探す時裏返す手間が要らないし、合わないピース同士噛み合っているのも離して表向きにしておけるからだ。そんなものはないので数回に分けて目的のピースを選り分けた時点でもう根気が尽きて、四周のピースの大ざっぱに二色に分けたのと明かりの入ったものと三つの小さい袋に分けて入れて終いにした。四隅にあたるピースは一個見落としたんだろう三個しか見つからなかった。周囲のピースで繋がるものが幾つかあり、紙の養生テープで繋いで仕舞った。