2019/09/15

スペイン語とポルトガル語

イベリア半島のカスティーリャ地方とポルトガルの標準語であり、共にラテン語の通俗方言が元になった言語だが、結構違うところがある。

スペイン語 (以下「西語」) を基準にして言うと、ポルトガル語 (以下「葡語」) では R と前後の母音の位置が入れ替わっていることが多い。

市・曜日 feria <-> feira

E と A が入れ替わる例も多い。西語で特定の料理を供する店を意味する語尾 -eria は 葡語では -aria になる。ピッツァ屋 pizzeria <-> pizzaria

同系統の単語で全然違う意味になるものがある。英語の exquisite 西語で exquisito/exquisita はどれも絶妙な、えも言われぬという肯定的な意味だが、西語と同じ綴りの葡語は珍妙なという意味になる。 西語 oficina では英語 office と同じ意味、西語と同じ綴りの葡語では作業場・修理工場という意味になる。英語なら (work)shop, garage になる。では葡語で事務所はなんと言うかというと escritório つまり書き物をするところ、だ。

こういうことだから、よくイスパノアメリカの人とブラジル人との滑稽な会話はジョークのネタになる。

私は西語をほぼ独習だけで学び、それから短期間ブラジル人から葡語の個人教授を受けてサンパウロに行った。西語の下地があるので約三ヶ月で葡語は流暢に話せるようになった (発音は別の話)。でも西語圏に旅行に行くと一週間以内にはなかなかすぐ西語が口から出ない。帰ってくると逆に葡語が出ない (Obligado と礼を言うところを Glacias と言ってしまう)。帰国してのち数年南米からの出稼ぎ者が多い地方で働いたからその間時々は使う機会があったが、その後東京に戻って全く使う機会はなくなり、西語と葡語とをきちんと分けて話すこともできなくなった。もはや何の役にも立たない。

中学生か高校生の頃、英語は正しく発音しないと決して理解してもらえないと言われた。ドイツ語についても同様な話を色々聞いた。しかしブラジルで葡語はいい加減な発音でもわかってもらえる。ブラジルに来て一ヶ月かそこらした頃、日本人の留学生に紹介された。彼は半年くらいいるということだったが、彼の発音を聞いて「これなら三か月で追いつける」と思った。しかしそうはならなかった。

適当でもわかってもらえる以上発音を向上させようという気が失せたから。西語では祖父祖母は "abuelo"と"abuela"で発音は少しも難しくない。でも葡語では"avô"と"avó"で後ろの母音が発音し分けられるどころか聞き分けもできない。Coca Cola は Coca (Google translateではコキ"coque"になるがサンパウロではそうではない) というが、軽食堂で言うといつでもオウム返しに聞き直された。それでもわかってもらえるから問題ない。

西語で巻き舌になる、語頭やアクセントのある母音の前の R はサンパウロでは少し強いハヒフヘホで発音 ("Queen of Rock, Tina Turner"は葡語で"Rainha do rock"だが、ハイーニャ・ド・ホキなんて発音する) するから巻き舌もうまくならない。かくして現地にいながら葡語の発音は一向上達しないままになった。

言葉じゃないがブラジルでまごついたのが、後ろにアクセントのあるフンフン?という鼻声だ。英語国の否定的な意味のそれじゃない。一生懸命説明してフンフン?と返されると聞き流されているような気がするが、ある日授業を受けた時に先生が一通り話してから「今のは判ったかい?」と聞くと一同「フンフン?」。ちゃんと聞いているよ、理解したよという意味だった。
あと、チッチッと舌打ちをして軽く左右に首を振る仕草。これは何も格好付けているわけでも失礼な仕草でもない。例えば店員にこれこれの物があるかと聞いて、無い時チッチッと舌打ちして首を振る。

注1:イベリアは七百年の間イスラム文化圏だったので、西語には名詞はじめかなりの言葉がラテン語起源の語とアラビア語起源の語と二本立てになっている。店を意味するのにラテン系の "Tienda" とアラビア系の "Almazen" があるように。ただしある程度違ったニュアンスを持ち、使い分けられられている。何々でありますようにという時「アッラーが何々してくれますように」というアラビア語の慣用句から来る "Ojara que 何々" という言い回しがごく普通に使われる。

注2:西語はイスパノアメリカ諸国ではスペイン語 (español) とは言わず、カスティーリャ語 (castillano) と言う。ブラジルの葡語については一時期ブラジル語と呼ぼうという運動があったが、ブラジルの葡語はむしろポルトガルのそれより昔の葡語を保存していること、世界の葡語話者の圧倒的多数はブラジルに住むことから、今ではポルトガル語 (Portugués) と呼ばれる。なお、一方の話者が他方を話そうと努めるときの両者の混淆した言葉は Portuñol とか Espagués などと呼ばれる。

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