2019/07/31

ワープロ

字が下手糞で書き方も遅く、町田の文具屋のショーウィンドウで中古の和文タイプを見て欲しいなと思ったほどだから、大学の研究室にあったパソコン (当初のは NEC の PC-8801) のワープロソフトにはすぐ飛びついた。まもなく自己流のかな打ちで随意に文書を作成できるようになったし、大学でレポートをレポート用紙にプリントして提出したのは私が初めてだったらしい。

研究室は教授の教授会での発言力で成績悪くても卒業させてもらいやすいという噂と、実際に動物に触れる機会の多いことで、定評ある人遣いの荒さに関わらず学生の頭数にはさほど困らなかった。他の研究室なら外注するような仕事、たとえば英文和文の印刷、学会発表など用の青スライド、各種分析やその他雑用。他の研究室では教授と学生が一緒に戸締まりして帰ったりするけど、我が研究室の辞書に戸締まりという言葉はなかった。連続14日泊まったこともある。

雑用に近い仕事に関しては、学生にはスライド用写真撮影や現像の上手、和文タイプの上手、英文タイプの上手、日本語ワープロの上手などがいて、日本語ワープロに関しては様々なフォームに出来るだけ合わせてドットインパクトプリンターで印刷することで私がピカイチだった。留学から帰った時は速打ちに関してその座は若手に奪われていたし、レーザープリンターも登場していたけれど。

ある時、研究室の予算申請のフォームを印刷するよう言われた。入力してコピー用紙で位置決めし、いよいよ用紙に印刷しようとしたら紙が厚くてローラーに入らなかった。どうにかローラーの位置をドライバーで調整することが可能であったかどうか?できなかったと思う。自分にできることはすべてやったので最後にゲラゲラ笑ってしまい、よくこんな深刻な状況で笑えるなと言われた。アパートで国家試験の勉強中の上級生が急遽呼び出されて和文タイプで打っていた。

かなキーで日本文を打つ人 (かな入力派) は昔はさして珍しくなかったと思う。アルファベットで済ましている人たち (ローマ字入力派) は決してかなキーの位置は憶えないが、かなキー利用者はかなも英数字も記号もすべて憶えてしまう。ただ自己流ではブラインドタッチはできないから速さではローマ字入力派にかなわない。キーボードのFとJ、テンキーの5に付いているホームポジション認識用のぼっちの意味がわからず、ヤスリで削り落とそうと思ったくらい。

でも同じ文章を打つのにローマ字では倍近い手数が要って、タイプする音の割に入力の進みは遅い。手があまり速く動かない自分はこれでいいと思っていた。実際かな入力派でブラインドタッチに習熟するとローマ字入力派にはかなわない速度に達するらしい。自分もかな打ちブラインドタッチの本も買ってはみたんだけれど。

やがてニフティサーブを個人で使うようになると、変換しそこないなどちょっとしたことでかな入力派であることが知れて珍しがられたりした。今ではユーザー全体の一割にも満たないらしい。