2016/12/31

「犬になりたくなかった犬」


Farley Mowat著 原題 The Dog Who Wouldn't Be

うんと昔の愛読書。著者はカナダの作家・ナチュラリストで「狼よ泣くな」などの著書で有名。近年シーシェパードが彼らの船舶に命名しているので聞き覚えのある人は結構いるだろう。著者はあんな連中に出資していたらしい。フランスの有名な海洋学者、故ジャック=イヴ・クストーも、日本の捕鯨に関するグリーンピースの荒唐無稽なプロパガンダ(鯨肉をドッグフードにしているとか)を無批判に信じ込み、著書にも書いていた。

英語版でもう一度読んでみたいと思った。なんとか Kindle 版を買いたかったが amazon.com でも Kindle 化されてないらしいので amazon.co.jp でペーパーバックを554円で買った。すらすら読めない他国語の本は、特に安い装丁の紙の本では読みづらい。判らない単語があったら辞書引かなきゃならない。学校の教科書以外書き込みや下線引きなど一切しないんだけど、こういう質の悪い紙の本にならやってもいいかな。繊維のしおりも付いてないんだし。

著者は1921年に東部オンタリオ州で生まれ、大伯父の影響を受けて生物の研究を志す。八歳の時に両親と共に中西部サスカチワン州に移住 (他に手段がないのでT型フォードのシャーシを利用して手作りした今風に言うならキャンピングカーを、山のように荷物を積んだA型フォードで牽引して行った)。建設されて三十年経たない州都サスカトゥーンの外れに住み手付かずの大自然に囲まれて育った。カナダ北部の野生動物に関する著作で名声を得た。2014年没。

この本は彼らがサスカトゥーンに引っ越して間もなく飼い始めた雑種の犬と共に西部の町や平原で体験した生活と冒険の物語である。しかし今思うと話を面白くするため結構誇張や創作が入っていると見なさざるをえない。

自分の犬の話になるが、さちを初めて駒沢公園のドッグランに連れて行った時、あるウィペットが数十m先から凄い勢いで突っかかってきた。中型以上のサイトハウンドにはこうした他犬をおもちゃのように扱う犬がいるから好かない (末尾のYouTubeリンクも参照)。ボルゾイとか特に。

さちはただお腹を見せて済むような正常な相手ではないと感じたのだろう、異様な行動をとった。すなわち相手に腹を向けて横倒しになると同時に、四肢を攻撃を防ぐかのように早技で繰り出しながら、それまでもそれ以後も聞いたことのない金切り声を発した。

これを見てこの本に出てくる著者の犬マットの不思議な行動を思い出した。かつて侵入した泥棒を捕まえて肉屋の肉のようにしてしまったという四頭の獰猛なハスキーが待つ裏庭に、猫を追って入り込んで囲まれた時、仰向けになって四肢を動かしサイレンのような声を発し、それがハスキー共を恐れさせて窮地を脱したという。また別の時は構わず飛びかかって来た頭のおかしい犬を四肢で空中に放り上げ、その犬は爪で滅茶苦茶引っかかれ血まみれになって退却したとか。

ン十年前にそれを読んだときにはだいたい真に受けていたのだが、しかし犬の爪なんか武器にならないじゃないか。さちが本能的にそういう行動をとったからには何らかの効果がある場合があるんだろう。しかし四頭の猛るハスキーからどうして助かったかわからないが、後の話は全くの創作ではないか?

当時のカナダではもちろん犬を繋いで飼うという風習や法律はなく、犬は市内外を自由に歩き回ってい、リードを使って散歩させる習慣すらなかったようだ (著者らは初めマットに猟の邪魔をさせないようリードを使ったが、彼が完璧に回収犬として振舞った時それを湖に投げ捨てている) 。町では上下に水平に渡した2×4インチの桟に板を縦に並べて打ち付けた板塀が裏庭の囲いとして広く使われていて、これが猫たちに安全な通路を提供していたが、マットは猫狩りや攻撃的な犬から身を守る目的で、この横桟の上を自由に歩くことをおぼえた。また梯子を登ることもおぼえ、樹に登ることさえ試みていたという。

著者は哺乳類鳥類爬虫類といろんな動物を好んで飼ったが猫だけは好きでなかったようで、友人らと竹竿を持って自転車に乗りベンガル槍騎兵隊の虎狩りと称して猫を追い回したらしい。マットが梯子登りをおぼえた後、著者らは近所で Cat Lady と呼ばれていた、屋敷内に数十匹の猫を飼い、保健所職員に数を把握されぬよう日中は猫を屋内に閉じ込め、夜間二階の窓から屋根の上に出して運動させていた人の家の敷地に、一夜忍び込んで屋根に梯子を掛けマットに登らせて殺生三昧をさせ、その騒動の後その家の隣人から新品の22口径ライフルを黙ってプレゼントされたという。

大らかでいい時代、いい土地柄だなあ。今日本でこんなことをしたらただじゃ済まない。

犬になりたくなかった犬

付け足り1:原作中のマットのとった行動の描写 Books'Cool より引用: "With one quick motion he flung himself over on his back and began to pedal furiously with all four feet. It looked rather as if he were riding a bicycle built for two, but upside down. He also began to sound his siren. This was a noise he made – just how, I do not know – deep in the back of his throat. It was a kind of frenzied wail. The siren rose in pitch and volume as his legs increased their R.P.M.’s, until he began to sound like a gas turbine at full throttle."

付け足り2:一躍名声を得た「狼よ泣くな」も、フィクションが多いとこき下ろされている。特に狼群に対抗して岩から岩へと小便を掛けて歩き、狼たちにテリトリーを認めさせたという部分は大いに疑われている。

付け足り3:サルーキのシャマル君、さちを運動させる

付け足り4:米国の作家 Beverly Cleary が書いて 1950年に出版された "Henry Huggins" (日本語訳タイトル「がんばれヘンリー君」) や、著者が自分の少女時代について書いた文によると、その時代の米国のオレゴン州ポートランドなどでは犬を繋いで飼う法律も習慣もなく、犬は通りを自由に往来していて特定個人または家族の犬というよりその界隈の犬というべき存在だったという。首輪と鑑札は全ての飼い犬が着けていたが、リードなどはない家が多かったと。

2016/12/22

ザワークラウト

ザワークラウトは刻んだキャベツを塩で漬けて発酵させた食べ物で、ドイツ語でいう「酸っぱいキャベツ」であり、フランス語ではシュークルートという。

最近では「乳酸キャベツ」なる言葉を作って普及を図る人もいる。ドイツだけでなく広く英語圏で使われているのがサ(ザ)ワークラウト (Sauerkraut) なのにわざわざ新語を作って普及させようというのが気色悪いし、乳酸キャベツという言葉も感じ悪い。

概要


さて、キャベツは近年健康に良いデザイナーフーズの一種として大蒜に次いで位置づけられていて、それを乳酸発酵させたザワークラウトは元のキャベツよりさらにビタミンなどの栄養素や様々な抗酸化物質が増している。さらに繊維質はもとより植物性乳酸菌が腸の健康状態の改善に効果があり、免疫機能向上に大いに資するとされている。癌や苛酷でハイリスクな癌治療がいやなら毎日食べるべし。分量は一日にスプーンかフォーク一杯 (約30g) を最大で数回でいい。一杯でも違うと言われる。

市販の瓶詰製品は加熱処理されているので一部のビタミンは壊れ乳酸菌は死滅しているが、それでも腸には良い効果がある。でもキャベツを買って自分で漬ければずっと安く体にいいものが作れる。安いときに作りだめすればもっと!

私がザワークラウトを作り始めたのは免疫のこともあるし、馬鈴薯・玉ねぎ・にんにくに次いで日持ちのする常備野菜に加えたかったから。これまでに15回くらい漬けた。ただしほとんど料理に使ったりせず、小鉢にとってそのまま食べている。

作り方は簡単で、キャベツを細かく刻み、重量比 2% ほどの塩を加えて揉んで水気を出させ、出た汁と共に漬け容器に入れて重しをかけるだけ。ポイントは漬ける葉を洗わないこと、刻みキャベツがすっかり汁に覆われ空気から遮断された状態にたもつこと。

用具と材料

用具
ジップロックのプラスティックバッグだけでも作れるし、後述するようにその方法だけの利点があるが、それ以外の場合に必要なものは以下の通り。

素焼きでない陶器や琺瑯引きの鉄容器または食品グレードのプラスティックなどの漬け容器
バネ仕掛けの漬け容器でない場合は何らかの重石とその下に置いてキャベツを押さえつけ空気との接触を防ぐ皿か落し蓋
キャベツを刻むための広いまな板と包丁、またはスライサー
塩揉みのための大きいボウル
塩揉みや空気抜きのための麺棒かすりこぎ
冷蔵保存用のガラス容器

欧米にはザワークラウトなど用に嫌気的環境を保ち、ガスは逃して虫や雑菌やカビ胞子の侵入を防ぐよう工夫された陶製の専用容器がある (最下部リンク先参照)。またザワークラウトに限らず、メイスンジャー (Mason jar)という1ないし5リットルの広口ガラス瓶で漬けることも多いようだ。1ガロン (≒3.8リットル) のボトルなどほとんどの日本家庭の冷蔵庫には棚をアレンジしないと入らないと思うが、米国では冷蔵せず漬けた容器のまま地下室など屋内の涼しい場所で保存するらしい。また、この手の容器のためにガラス製の重石やガスを逃がす弁付きの蓋や突き固め用の両端が広くなった棒も売られている。

室温の変化を内容に伝えにくい点で厚手の陶器が理想的だが、まあ一回目はジップロックやあり合わせの容器で少量作り、上手くいって味が気に入ればそれ用の容器を買えばいい。私は常滑焼の久松窯ガラス蓋付 5.4Lという中サイズのキャベツ三・四個くらい漬けられる容器と、トンボというブランドのコンクリートをポリプロピレンで包んだ重石の5.5型の組み合わせで使っている。重石の外径は寸胴型のかめのほぼ垂直の内壁とスレスレのサイズで、キャベツを押さえるものが不要であり、真ん中に上下に通じる穴があって空気や炭酸ガスが抜けやすい。蓋を取らなくても様子が見えるのでカビ胞子や納豆菌などの混入チャンスを減らせる。

重石は理想的にはキャベツの重量の倍ぐらいあった方がいいが、それより軽くてもとにかく液面下に押し下げた状態で保持され、持ち上がらない工夫ができればいい。例えば容器の蓋に数mmつっかえるサイズの食品 (ジャムとかキャビアとか) の瓶かあるいは大根か蓮根のような円筒状に切った根菜を入れて、押し込んでから蓋を閉じるとか。

少なめの塩で漬けて幾度も蓋を開けているとカビが生えやすい。重石を置いてから内面を消毒した透明なプラスティックの袋 (できたら食品グレードのものがいいが、大きいサイズでは手に入らないだろう) を重石の上から容器に被せて紐かゴム輪で縛った上から蓋をし、空気抜きは袋の上からするといい。

ステンレスの容器や落し蓋が使えるかどうか知らない。ステンレスの品位にもよるだろうが、避けた方がいいのではないか。

材料
手に入れば紫キャベツの方がずっと多くのビタミンCやポリフェノールを含むらしい。また眼にもいいらしい。出来上がりの色は個人的に好かないし発酵の進み具合を葉の色から判別しにくいけれど。ただし葉が薄いぶん歯ごたえは悪くなる。普通のキャベツに加えて紫キャベツもいれるといい。

塩は海塩など自然塩が好ましいが、湿った塩では使用量の見当がつきにくい。

キャベツ以外の野菜として、人参や蕪やセロリや大蒜や玉ねぎなどを加えたり、クランベリーやりんごのような果実を加える人もある。その場合はその分の重量も塩の計算に加えること。

香辛料として好みでキャラウェイシード・ローリエ(ベイリーフ)・マスタードシード・ジュニパーベリー・唐辛子・黒胡椒などを加える。これらのスパイスは風味を加えるだけでなく、おそらく好ましくない菌の繁殖を抑える役割も果たすと思う。ローリエはタンニンを含んでいて、漬物のシャキシャキ感を増す効果もあるそうだ。

工程

下準備
キャベツの、汚れや虫喰いなどで材料として好ましくない外側の葉を何枚か剝ぎ、下から茎が突き出ていればカットして残りの重量を計る。

剥いだ葉の比較的きれいなものは洗ってとっておく。

キャベツの重量の2ないし2.5%の塩を計っておく。私は最初の二回以外いつも1%で漬けて、冷蔵庫に移すまではほとんど失敗したことがないが、キッチンの微生物学的環境にも影響を受けるので最初は2%〜2.4%で。作り方を解説したサイトで塩を減らそうとしないよう警告しているところは多い。このエントリーで執拗にカビの話が出るのは1%という低い食塩濃度のせいもある。2%かそれ以上ならさほど心配することもないはず。一方で塩を使わぬレシピを紹介するサイトもある。そういうレシピではとても細かくキャベツをスライスしたり機械でおろしたりし (塩なしでは葉から汁を引き出せないから)、消毒も特に念入りに行う。粗塩など水気を含んだ塩は水分を見越して多めに使うことを忘れずに。

スパイスも計っておく。キャラウェイシードはキャベツ (プラスその他の野菜) の重量の0.5%程度、ローリエはキャベツ1kgあたり1~2枚、他のスパイスを入れるならジュニパーベリーや黒胡椒はキャベツ1kgあたり2~3粒、鷹の爪は一個。白ワインや砂糖を加えるレシピもある(酸味が増すと思う)。

手を石鹸でよく洗うのは当然として、まな板や包丁や麺棒、非プラスティックの容器は熱湯で消毒し、プラ容器やスライサーはアルコールで消毒してから温湯ですすぐ。パストリーゼという食品グレードの消毒用アルコール入りスプレーが便利だ。作業中手を触れる可能性のある場所、例えば水道栓のレバーや蛇口、アルコールスプレーのハンドル付近とかも。また、大きい保存容器で漬けた場合、中身を菜箸やトングなどで取り出す都度内側と蓋とに噴霧してカビを防ぐのに使える。琺瑯引きの容器は水を入れてそのまま火にかけられるから便利だ。

刻みと塩揉み
キャベツを縦に四つ割にして芯を除去し、上端から好みの粗さに刻む。細かければ水気が出るのが早く塩揉みが楽で初期の発酵の進行も多少速い。太い葉脈の部分は特に細かめに刻む。私はある程度の歯応えが残るのが好きなのでスライサーは使わず包丁でおよそ 5mm 幅に刻むが、寒い季節のキャベツや店頭や台所に長めにあった物は出来るだけ細かく刻んだほうがいい。

ボウルやジップロックの容量が生葉を一度に全部塩揉みするに足らない時は何回かに分けてやるが、塩やキャラウェイシードは回数分に分けておくといい。

刻んだ葉に分量の塩とキャラウェイシードを振り、力を入れて揉みながら塩が全体に行き渡るようにする。塩とキャラウェイシードを一緒に加えるのは、そうした方が塩が満遍なく混ざったかどうか分かりやすいため。また他のスパイスは麺棒も使った塩揉み作業で砕けやすいから。ヨーロッパでは秋に大量に仕込む時は裸足の子供を樽の中に立たせて足踏みさせたらしい。

空気を追い出す
夏の水気の多いキャベツだと1%の塩でも3~4時間、スライサーで細かくすると一時間もかからず葉がすっかり浸るほどの汁が出るが、冬で刻みが粗いと12時間もかかることがある。汁の出が少ない場合は同じ%の塩水を作って注ぐか塩を足す。ただし水は塩素を除去したものを使う。二回目以降なら前回の汁を足すこともできる (backslopping という、あまり推奨されない)。

乳酸菌のスターターとしては葉の表面に付いているものだけで充分であり、酸と多量の乳酸菌を含む前回の汁を最初に足すことは自然な菌叢の消長・交代の妨げになり、良し悪しはともかく風味に変化をもたらし、酸味が強くなり、出来上がりのザワークラウト中の生菌のバラエティも減らすことになる。植物性乳酸菌をうたうある種の乳酸菌飲料をスターターとして使う人もいる。

汁が上がってきたら他のスパイスを加えて漬け容器に移す。あれば麺棒などで力を入れてさらにこき混ぜ、空気を追い出す。最初にとっておいた刻んでない上葉を上に被せ、その上から皿など被せてさらに重石をする。一度に大玉二つ以上を漬ける時は、塩揉みが楽ではないので、200〜300ml ほどの水で塩水を作ってそれを刻んだキャベツの上から注ぐと塩気が行き渡り汁が出るのが速い。

これらすべては、葉が塩を含む汁にひたされて空気から隔離され、乳酸菌の繁殖に適した嫌気的環境を作り雑菌の繁殖を抑えるためである。汁は葉の上に数cm被るのが望ましい。また葉の断片が液面に浮いているとカビなど生えやすいから取り除いた方がいい。容器の内径にぴったりのサイズの重石か皿があればとりたてて上葉を使う必要はない。しかし皿の下にあまり空気がたまらないように気をつける。

ジップロックを使うときはボウルで揉んで嵩を減らしてからバッグに入れる。バッグの大部分を大きい容器かシンクの水に沈めるようにして空気を追い出し、封をすると楽かもしれない。スライサーで繊切りにした小さめのキャベツ半玉なら汁気が出た後は 19×18cm の小さいバッグに余裕で収まるし、空気抜きも世話がないので袋から出さない限りカビによる失敗の可能性は最も低い。ただ、毎日のように、ガスが溜まってパンパンになる前に袋の端を少し開いて逃してやり、またガスを含んだキャベツからも押し出してから再び封をする必要がある。

最初は葉の間に含まれていた空気が、葉が柔らかくなり汁にひたされるにつれ気泡となって所々にたまるので、麺棒で突くなり充分な重石をかけるなりして追い出す。

やがて酵母菌と一部の乳酸菌により炭酸ガスが生成され、これも気泡となって葉の間にたまる。夏なら数日、冬でも十日かそこらで菌種交代により炭酸ガスも出なくなる。

重石のせいで蓋がちゃんとしまらないときは蓋の上からタオルなどをかけて紐か大きい輪ゴムをかけ、虫を防ぐ。この場合汁が出てキャベツのかさが減るに従い重石が沈み汁が容器から溢れるおそれがあるので、下にトレーを敷くか適宜別容器に汲み出す。

保存


こうして室温に置くと夏なら数日、冬なら十日から二週間ほどで食べられるようになる。(紫キャベツなど着色する材料が入っていなければ) 葉の緑色が褪せて全体に黄色味を帯びてくる。色や発泡の程度など見た目で判断できない初心者の間は、時々味見して好みの酸度や風味になったら密栓できる広口ガラス瓶に移し、冷蔵庫で保存する。

最初にお玉などで汁を少し入れてからキャベツを入れ、高さ数cm毎に麺棒などでよく詰め込んで混入した空気を抜く。刻みの粗さや瓶の構造・強度にもよるが、そうしないと下の方に残った気泡を追い出せない。できるだけ口の近くまで一杯に詰めてなおキャベツが全て最低でも1cmは液面の下に来るように注意する。そして瓶の高さの 1/5 ほどは空気を残す。これは開栓時に吹きこぼれないように。

庫内ならカビが出なければ最低二週間は保存できる。いや、個人的経験では、ちゃんと発酵させてしっかり詰めてあればはるかに長期間保存できる。初冬に漬けてそのまま室温で二ヶ月放ったらかしておいても酸味が強い以外は問題なく漬け上がったことがある。温度設定にもよるが、冷蔵庫の中でも少しずつ発酵が進み酸味が増す。もし好みであるとか旅行などの都合で発酵が十分進まないうちに冷蔵庫にしまうときには炭酸ガスの圧力がたまらないように注意して栓をすること。しかしワイヤーの弾力で蓋を身に押し付ける方式の容器だと、ガスは自然に逃がすようだ。

余った汁も冷蔵庫で保存する。汁はクラウトジュースと呼ばれ、欧米では紙容器などで売られ、つまり買ってまで料理に使ったり、もしかすると飲んだりする人たちがいる。余った汁は料理に使うといい。剥いたにんにく片を汁に漬けておくと芽が出たりするのを防ぐとともに刺激臭が少なくなる (というよりにんにくの漬け物になる)。

瓶から出すときに小さいトングなどで絞るといい。必要なら瓶に汁を継ぎ足す。食べる前に塩分を減らしたかったら固く絞ったり、さらに水で軽くゆすいで絞ったりする。しかし腎臓病でもなければそんなことをするより他の食品や外食で摂る塩分を減らした方がいい。

ザワークラウトは破裂しないような容器に詰めて冷凍保存ができる。昔の欧州ではザワークラウトの樽は冬のあいだ戸外に置きっぱなしだった。しかし、よほど大量に作って二ヶ月以内に消費しきれない場合以外は推奨されない。

食べ方


良く漬かったザワークラウトはそのまま食べても、またアボカドの刻んだ身と混ぜて食べてもおいしい。栄養学的に豚肉と合うのでホットドッグのトッピングにしても、豚肉と一緒に加熱調理してもいい。

ありがちな失敗


室温に置いている間に、液面や浮いたキャベツ片に白・赤・または青いカビが生じることがある。1%の塩でも仕込み九回目まではカビなんか出なかったのに、以後長く置くと見舞われるのは台所にカビ胞子が普通以上に残留するせいかも知れない。
カビが生えたら瓶に詰めて冷蔵する前に丁寧に取り除き出来るだけ早く消費する。漬け容器でカビが生じなくとも、複数のガラス容器に移して冷蔵庫に入れたあとはカビの生えるリスクが増える。放置すると液面から次第に下の方に繁殖してくる。またカビと間違いやすい微生物に産膜酵母とか英語で"Kahm yeast"とか呼ばれるものがある。これは無害だが、風味が悪くなるので出来るだけ取り除く。納豆菌に被曝すると納豆臭くなることもあるらしい。

カビ胞子や納豆菌などを含むキッチンの空気との接触による汚染をさけるためには、複数の小さな容器で保管するより、容量の大きい丈の高い容器一個に詰めて上からどんどん消費する方がリスクが少ない。一つの容器から毎日朝晩取り出していればカビる暇がないが、数日食べないでいるとカビることが多い。ジップロックでも開けて中身を食べだしたら瓶よりも遥かにキッチン内空気に接する面積も機会も増える。

あと、冷蔵庫内におさまるガラス容器などで仕込んで乳酸菌が増殖する前にすぐ冷蔵すると、全く発酵が進まなかったりする。最低数日は室温で発酵させて泡が出るようになってから冷蔵すれば発酵が止まることはない。

リンク集

英語のYouTube動画
Brad Makes Sauerkraut | It's Alive
人気チャンネル Bon Appétit の動画

How to Make Sauerkraut: Salting & Massaging
How to Make Sauerkraut: Packing, Weighting & Venting
How to Make Sauerkraut: How Long to Ferment?
家庭で作る発酵食品の権威、Sandor "Sandorkraut" Katzの動画

書籍
サンダー・キャッツの発酵教室
ザワークラウト作りを十ページにわたりカラー写真入りで説明している。
デザイナーフーズ関連
デザイナーフーズ計画
がん予防に有効な食物ピラミッドと糖質制限!実際どんな食事法なのか
デザイナーフーズ&ガン予防の15か条
Finnish Study Promotes Sauerkraut
8 Surprising Benefits of Sauerkraut
How Much Sauerkraut to Eat Daily?
キャベツ
キャベツ博士
ザワークラウトの解説・レシピ・ 用具
Wikipedia日本語版
用具
英語サイトの一部だが、サイト全体がザワークラウト作りを扱っている。
用具
メイスンジャー用のツール

2016/11/19

"USian" またはアメリカ合衆国人の別の正当な呼び方

"USian"は、アメリカ合衆国 (以下米国) の住人ないし国民、または米国風・米国産という意味で使われる "American" の代替語。発音はユーエシエンとかユージエンとか。

5年あまり前に、ある IRC (Internet Relay Chat:もうだいぶ廃れたオンラインテキストチャットの古い方式) ネットワークのチャンネルで知った。最初ネットスラングと聞いたが Wiktionary によれば紙の本でも用例があるらしい。

共通語として英語を使う人々の中で、米国のものを指すのに American という言葉を使うことに抵抗を感ずる人々が 2000年代から使い出したらしい。というのも米国はアメリカ大陸全体の1/6を占めるに過ぎないのに大陸の名 (だけ) を自ら名乗るのは不都合と言えるからだ。

日本も明治以来関係が深いので、ほとんどの人は彼の国をアメリカとしか呼ばない。しかし当の大陸、とくに中南米の人やスペイン・ポルトガルなど米大陸と歴史的関係の特に深い国々ではそんな呼び方はしない。私は話し言葉でも書き言葉でもことさら「アメリカ」呼ばわりは避けて日本語では米国とか合衆国とか呼んでいる。

しかし米国人らは自分らのことをそう呼びたいし、他国の人にもそう呼んで欲しいらしい。米国製の映画やTVドラマの中では、中南米人のスペイン語の会話で米国人の意味で "americano(s)" という言葉が出るが、不自然というか、ありえない。自分たち自身も "americanos" なんだから。 スペイン語版 Wiktionary の americano の項では、米国人という意味で使うのは "Puede sonar arrogante a otros americanos que no son de Estados Unidos."「米国人以外のアメリカ人にとっては不遜に聞こえうる」と書いてある。米国人をさす場合には "estadounidense" とか "norteamericano" とか "gringo" とか言う。

そういえば、昔のTVシリーズ「コンバット!」でもドイツ兵は "kraut" か "jerry" か "fritz"、フランス人がドイツ兵をさす時は "boche" や "hun"、英国兵は "tomy" や" limey"、だが、シリーズのごく初期に"Ami's"という例があった以外ドイツ兵は米兵のことを必ずご丁寧に"Amerikaner"と言っていた。これも不自然。

米国人には "USian" は不快なようだ。でも自分達だけを指してアメリカンと呼べというのはやっぱり無理だよ。

USian is distracting enough.
What's so bad about 'USian'?

追記: "Other languages, including French, German, Japanese and Russian, use cognates of American to refer to people from the United States while others, particularly Spanish, primarily use terms derived from United States (Spanish: estadounidense, Portuguese: estadunidense; "United States-ian"). "
"Writer H. L. Mencken collected a number of proposals from between 1789 and 1939, finding terms including Columbian, Columbard, Fredonian, Frede, Unisian, United Statesian, Colonican, Appalacian, Usian, Washingtonian, Usonian, Uessian, U-S-ian, Uesican and United Stater." Wikipedia Names for United States citizens より。

2016/10/27

犬用パズル

スウェーデンの Nina Ottosson のパズル、Dog Fighter と Dog Worker を amazon.com から買った。Fighter は難易度レベル2、Worker は3で、後者は amazon.com で扱うN.O.の単品パズルでは最も難しいとされている。

Dog Fighter
Dog Worker


どちらも溝の一端だけがフランジ付きブロックを抜き出せるよう広くなっていて、そこまでブロックをスライドさせないとブロックが取れず、中の餌にもありつけない。ブロックは配置後に上の穴から餌が入れられるよう、またもとは木製だったが簡単に砕けないよう特殊な樹脂製に改良されている。このブロックの補充用は現在のところ amazon.com では扱っておらず、従って壊されないよう監視し、犬が力づくでブロックを抜き取りにかかったらすぐ制止する必要がある (nina-ottosson.com から買えるが安くない) 。

Worker では中央に軽く回転する円盤があってその切り欠き部を溝に合わせないとブロックが取れない。簡単に円盤と切り欠きの役割が理解できるとは思えないが、犬がブロックを鼻で押したりしてブロックが回転するとそれが円盤に伝わるし、無意識に足で円盤を掻いて回したりもするので、簡単に諦めなければ遅かれ取れるようになる。うちの犬は買って十回以内のチャレンジで十分以内に六ヶ所全部取れるようになってしまった。他に四つの単純な穴にぴったり入る木製ブロックも四個あって、これは咥えてまっすぐ引き上げないと抜けない。

Fighter の方にもフランジ付きブロックの抜き取りを妨げるよう短い棒が二本付いており、これを溝の広い方の端に入れると掻き出すのも咥え出すのも難しい。同様にそこに差し込める木製ブロックも二個付いていて難易度を上げられる。

日本のポンポリースも同様なパズルを売っていて、中にはそれなりに難易度の高いものもあるが、スライド式ブロックは紙を積層圧搾して固めたもので壊されやすい。また色を塗ってあるのも衛生上好ましくない。N.O.の一見木製のパズルも本体は集成材だ。

日本ではこうしたパズルやコングのような餌を仕込めるおもちゃを「知育玩具」と称して売っているが、多分そんな名称で売っているのは日本だけだ。正確に言うなら「注意力拘束玩具」だろう。

隠す餌にはドライフードを使っていたが、脂っ気が多いし粉も出がちなので好ましくない。集成材に臭いが染み付く。こないだゴキブリの幼虫が入っていた。鹿肉五膳・馬肉五膳のシリーズはブロックをセットしたあと穴から入れられるし、脂っ気も粉気も少ないので最近はそれを使っている。バランス上からはドライフードが好ましいが。なお、うちの犬のWorkerのスライドブロック6個解除の最新記録は3分20秒程度。

付記: その後2分を割るようになったので使うのはやめた。

2016/10/19

犬運搬車

さちを自転車の籠に載せた始めは、一歳未満の頃に散歩から帰宅した時なにか手を空ける必要があって、どこにも行かないようにさちを抱き上げ、玄関前に停めてあった母の自転車の後部の大きい籠に載せた時だった。座ってじっとしていたので、案外これで遠くまで連れて行けると思いついた。

そのころの私の自転車は世田谷通り北側のユニークな看板で知られたあの店の二代目に頼んだもので普通のママチャリフレームにプラスティックの大きめの前籠が付いていた。しかし前輪にハブダイナモ、後輪に七速遊星変速ギアで回転抵抗が大きく、坂道を漕がずに降りるときどんな整備不良のママチャリにも追い越されるほどだった。おまけに前後泥除けはステンレス製だったし、サークル錠の閂は鉄板を丸めたやつでなく無垢鉄棒だった。これで退屈な帰り道は自転車に牽かせて楽して帰ろうとする犬を引っ張って用賀七条の坂を登るのは結構骨だったので軽い自転車を新調することにした。


初代さち運搬車、後方は小吉君


またしても乗車帰宅

オアシス動物病院のすぐ近くのサイクリングショップ ツバサに行って「10kgの荷物を前籠に積んで川っ縁の石の多い小道を走れるなるべく軽い自転車が欲しい、泥除けは必須で変速ギアは7速で足りる、予算は6万以上10万以内、もっと出せるけど自転車みたいにあっさり盗まれるものにそんなにカネをかけたくないから」と言ったら自転車旅行用のランドナーというタイプのフレームセットにストレートに近いハンドルをつけたものになった。

ランドナーと日本で呼ばれるタイプは戦後フランスで作られていて、日本で人気が出て国産されるようになったもので、その後日本から米国に輸出されて米国でも生産されるようになった。フランスでは既にそのタイプは廃れて作られておらず、ほぼ日本と米国でしか見られないタイプである。ホイールのサイズには幾種類かあるが、日本では旅先の自転車屋で補充がきくよう 650X38A というママチャリ用のタイヤが使える規格のものが最も多い。

店に在庫していた深谷産業の Davos Touring 603 というモデルで、もとは国産だったが一〜二年前に中国生産になったばかり。店主はこちらの体形を一瞥しただけでフレームもクランクも最適のサイズを選んだと後でわかった。クランクは普通に店においている中で最長のサイズだった。見積りは14万を超えたが、フレームに取り付けるボトルケージと空気入れは要らないと言って11万台におさめた。


新調まもないバイクとさち、野川公園で

その後 Topeak のボトルケージを付け、Brooks の革サドルに変えペダルも数回交換しハンドルを二回交換し、もう一回交換する予定。備品もサドルバッグを大小三個、うち一個は多摩川の兵庫島でさちを追いかけまわしている間に中味の工具類ごと盗まれた。

これで野川沿いに調布市の野川公園や小金井市内まで五〜六回、多摩川沿いには関戸橋までさちを連れて行った。本当はスリングやキャリーバッグに入れて小田急線で丹沢に行ったりしたかったが、そういう袋に入ることは猛烈に嫌がるので無理だった。


キャネルの飼い主さんが陸橋付近で撮ってくれた写真

2016/10/10

原発

素人だから原発を全廃すべきかどうかわからない。

昔、電力会社は予定された廃炉を先延ばしにする一方新規の建設は予定通りに進めてきた。理由はそうした方が儲かるからだ。廃炉は途方もない支出を意味する。

原発は本来夜間に需要が落ち込んだ時の最低線 (ベースライン) 発電量を担当し、水力と火力とで昼間の増加分を受け持つ筈だったが、結果として増え過ぎた原発のため発電量がベースラインを超えてしまったので、水力発電所で翌日用に水を汲み上げるだけでは消費しきれず、夜間の出力調整運転という禁じ手に出なければならなかった。これは自動車が混んできた専用道で右に左にと先行車の追い抜きを繰り返すと同じくらい危険な運転方法だ。

一方で夜間電力の安さを宣伝し、風呂釜や給湯器のような製品の開発を促進した。今の日本の産業用以外の電力の使い方は無駄ばかりだ。24時間保温する風呂だの一年中ホッカホッカの便座だのコンビニだの自販機だの……。広い部屋の天井にある照明は全部点けないと気が済まない連中は若い世代にとても多いし。こういうのを欧米並みに合理化できれば原発は需給だけの話ならなくともなんとかなる。

しかし他の発電方式が何かの壁にぶつかった時のために、将来への技術の継承と発展のために稼働原発を一箇所くらい残しておくべきかもしれないし、もしかすると核武装が必要になるかもしれない*。

腹が立つのは福島第一の大事故当時、世間を落ち着かせるためによく報道された、外国のどこかでは自然放射線がこれだけあるとか、飛行機に乗るとこれだけ放射線を浴びるとかいう話だ。外国のごく一部の地方の話はともかく、飛行機で受ける放射線の話は今まで隠してきたのにしゃあしゃあと持ち出したことだ。核武装を標榜するあるブログでは放射線は身体にいいなどと抜かしやがった。

*:2020年2月刊の伊藤貫著「歴史に残る外交三賢人」を読んで考えが変わった。とっくの昔に必要になっている。

よくわかる原子力 電力のつくり過ぎ

2016/08/17

さち その1

さちは神奈川県のブリーダーから譲り受けた。彼らは日本犬保存会のブリーダーで主に柴犬や紀州犬の繁殖と出展を手掛け、仲間うちで繁殖用から除外した仔犬を人づてや一部ネット上で販売するほか、仔犬を譲った先で事情があって飼えなくなった犬やおそらく使わなくなった台雌の里親も不定期にネット上で募集している。私はそれを見てコンタクトをとり、柴犬か紀州犬の成犬で里親が必要な犬を引き取って飼いたいと申し出た。しかしその時はそういう犬はなく、仲間で歳とったから犬を減らしたいと言っていたブリーダーを紹介された。

早速連絡すると次の土曜日に見に来るようにと言ってくれ、結局手放したい成犬はないので繁殖用に残してある三腹分くらいの三ヶ月前後の仔犬たちの中から選ぶことになった。今は気性で選び気をつけて社会化すれば大丈夫じゃないかと思うが、当時は柴犬の雄といえば街で会う他の雄犬にそれが義務であるかのように吠えるという印象だったので、本当は雄が欲しかったが雌を飼うことにしていた。最初に抱き上げたのがさちで、そうされても全く落ち着いていたので、結局母親を見ることも他の仔犬を触ることもせずその犬に決めた。その時生後99日目だった。既に「扇の幸姫」という名で登録され、さっちゃんと呼ばれていた。良い名と思ったのでそのまま家でもさちと呼ぶことにし役所にも「さち」で登録した。

家に来た翌日のさち


玄関の土間にケージを置き、板敷には古い絨毯を敷き詰めた。ケージは前からあった長辺90cmのもので、大きすぎた。朝、ケージの扉を開けようとすると鉄砲玉のような勢いで飛び出してくる。玄関に行くと板敷に跳び上がりそこからケージの屋根に跳び上がり土間に跳び下りることをダンダンダンと繰り返す。餌を入れた食器を持って行くと跳びついて力づくで取ろうとし、マテもへったくれもない。

https://youtu.be/V5PuB7CYUx8

2016/07/21

「豆柴」

日本の都会の住宅事情では犬は同じ犬種でも体格の小さいほど求める人が多く、従って高く売れる。だから人気のある犬種を繁殖する金儲け主義のブリーダーはまた、少しでも小さい犬を作ろうとする。そのため東京では柴犬に限らず、多少とも人気のある犬種では標準よりかなり小さい個体が増えている。

いや、犬種標準に合致しない犬を作って売るからといって金儲け主義とは限らない。良い家庭犬や猟・競技その他の用途の犬の供給を目標とするブリーダーもあるから。しかしまず金儲け主義が多いとみていいと思う。「豆柴」の作出では歴史のあるブリーダーが二軒あり、それらの系統のものなら成犬になったらでかくなったということはないと思うが、露店で売る「大きくならないミニうさぎ」同様のものを売るところがとても多い。

いずれにしろラブやゴールデンやコリーやジャーマンシェパードならまだしも元々小さい犬種でさらに小さい個体を作ろうとすることには無理がある。全体のバランスが崩れるほか、手っ取り早く小さくするために無茶な交配をしたり、別犬種を混ぜているのか気性も違うのを時に見かける。

今飼っている柴犬は雌だし、雌としての標準よりも小さめなのでよく「豆柴ですか」と聞かれる。「豆柴」呼ばわりするからには普通の柴犬はもっと大きいと思っているかもしれない。概して脚が長く大柄な柴系雑種と柴犬を混同しているのかもしれない。しかし前に飼っていた雌の柴犬は体重が14kg以上あったが、それでもまだ「豆柴ですか」という仁がいた。馬鹿ですか?

数年前までは「豆柴ですか」という問いに対しては「そういう犬種はありません」と確答できた。しかし JKC から仲間割れした連中が作った団体が「豆柴」の登録と血統書の発行を始めてしまった。どうしてもその団体(NPO 法人日本社会福祉愛犬協会、NPO が聞いて笑わせら)の名を憶えられないのだが、略称を KCJ と称し、仲間うちや登録犬の飼い主の間では KC と呼ばせている。KC とはイギリスの元祖ケネルクラブのことで、ろくでもない金儲け主義の団体が名乗っていい名前じゃない (JKC だってたくさんあった団体の一つに過ぎなかったのが、いち早く FCI とアフィリエイトして対外的に日本を代表する犬種登録団体みたいな顔をしているだけ) 。

公益社団法人日本犬保存会では元々その団体の登録犬に保存会での予備登録を許していたが、彼らの「豆柴」登録開始の直後の会誌でそれを取消し、絶縁した。「保存会」なのだからそんなものを許容できないのは当たり前だ。

よくよく言っておきますが、むやみに他人の犬を指して「豆柴ですか」と聞くのは、他人の腕時計を指して「どこの露店で買ったか」とか言うに等しい。気分を損ねたくなければやめてください。

「豆柴」についての日本犬保存会の見解 (秋田犬の下)

日本社会福祉愛犬協会に関するyahoo!知恵袋のページ

同上

2016/07/03

猫嫌い

母が猫嫌いだったから子供の頃に猫に間近に接したことがない。大学時代以降猫にふれる機会は時々あったが、好きにはなれない。

街猫は何といって家畜としても野生動物としても半端な存在で、ほとんどの個体は結局人間に依存し切っている癖にいうことは聞かず (人の言葉を色々憶えるだけの知能もないらしいが) 、都合の良い時だけすり寄ってくるからだ。自分で飼っている柴犬もプリミティブな犬種で様々な犬種の中では人間への精神的依存が少なく、したがって中々いうことを聞かず、清潔好きなこともあって猫っぽい犬だが。

石井桃子作「山のトムさん」には、戦後間もない当時に農家で害獣除けに飼われていた猫たちが痩せて目をギラギラさせて畑で鼠などを見張っていたことが描かれている。そういう猫たちは飼い主たちにとりほとんど必須の存在で、与えられた餌以上の仕事を果たしていた。そういう猫たちは今も田舎では仕事をしている。鼠から収穫物や家畜の飼料を守っている。英語圏では farm cat とか barn cat とか呼ばれる。

うちの犬は猫を一緒に遊べる相手とみなしていたが、相手はそうは思ってくれない。若犬時代何度も家から脱走したが、行くところは近所の餌やりをしている家と決まっていた。連れ帰って明るい場所で見ると頬に浅い傷を受けていることが二回ばかりあった。そんなこんなで成猫は恐れるようになった。こけ脅しに猫が1m突進してみせると悲鳴をあげて3m逃げる。

以前は庭に面した軒下に折り畳み式の大きなケージを置いて不在中や忙しい時は犬をそこに入れていた。そうしたとき猫は警戒して庭はさっさと通り過ぎるし、犬も平静にそれを見送っていた。しかしガラス戸の内側に犬がいるときは猫どもは無害安全とみなして図々しく振る舞い、犬も頭にきて追っ払おうとガラスに体当りを繰り返したりする。近所迷惑だが幾ら叱っても呼んでも聞かないので、最近はそうしたとき門扉の閉鎖を確認してから外に出すようにした。すると猛然と猫を追い回し、猫はみな命懸けで逃げる。捕まえたことはないが、殺しても心は全く痛まないだろう。入ってきた方が悪いんだから。

公園などで自分一人の刹那的快楽だけのために餌やりをして野良猫を無意味に増やす人たちは許せない。犬が誤食する気遣いさえなければトレーなどに放置してある猫餌に不凍液を注いで回りたいぐらい。

散歩中に猫を見つけて喜んでいる犬 (ちょっと緊張)
喜ばれている猫

2016/06/28

ラテン語

17世紀のヨーロッパでは中流以上の家庭の男の子は今の小学生くらいの年からラテン語を教わっていたらしい。ラテン語を習得すれば、それが俗語化したり、その影響を強く受けたりした言語の習得は容易になるからという理屈だった。マーク・トウェインは1836年生まれだが、その時代の米国中西部でも、上の学校に進む予定の男の子はラテン語を習っていた。18世紀にベンジャミンフランクリンは、これは無意味な風習であり、大抵の子供は難しすぎるラテン語で挫折し、結局なんの役にも立たないと言っている。

私の出た大学の学科では週一×一年間だがラテン語の授業があった。もっと上の学年であった蹄鉄実習ほどじゃないが時代遅れでほぼ無意味な科目だった。担当の教師もわかっているので薄いハードカバーの教科書は適当にして、グレゴリオ聖歌や中世ドイツの学生歌などを教えて歌わせたりした。

私は既にスペイン語を独習していたのでラテン語の初歩ではごく有利であり、ある時教科書もプリントも忘れてきて机に何も置いてなかったが、教師に「君は何も持っていないのに何でも知っているねえ」と言われたりした (教室爆笑)。教科書中ほどの動詞の活用まで授業が進めばますます調子こけただろうが、そこまで進まずに終わりになった。

読む人が読めば何学科かわかるだろうが、こんな科目は今でもあるのだろうか?

2016/06/17

ジャンクフード

近所のスーパーで犬用おやつとして売っているのは例外なくジャンクフードに類するものばかりだ。

だいたいは鷄の屑肉、例えば鷄ガラに高圧ウォータージェットを当てて落とした肉切れみたいなものやファストフード企業の基準にも引っかかるような古い肉などを挽いて結着材料や軟化剤を混ぜて成形し、着色料や犬の食欲をそそる何か魔法のような合成香料を吹き付けてある。たいていジャーキーと名付けて売っている。ペット用品店ではもう少し良いものも売っているが、自分の犬に長生きして欲しいと願う飼い主が買いたいと思うようなものは一部でしかない。

犬を飼っていないが慰みに公園などでよその犬におやつを与えて喜ばせたい人はたいてい、そういう「ジャーキー」を用意してくる。魔法の香料のおかげで犬どもは自家製の上質なおやつや鶏獣肉・臓器の素干しやフリーズドライのような高価なおやつよりもそういうジャンクを食べたがる。与える方は相手の犬が太り過ぎていようが気にかけない。しかも量が多い。断るのに、あるいは最少限度にしてもらうのに苦労する。訳を話して「お金を出して感謝されないどころか敬遠されるのは馬鹿馬鹿しいでしょう、どうかやめて下さい」と言ってみたい。

飼い主の一部にもそういうジャンクを自分の犬に与える人がいる。知り合いの犬に箱みたいに太った柴犬がいるが、飼い主は避妊手術のせいで太るのだと言っている。確かにそういう犬もいるだろうが、その人が他人の犬に物凄い勢いで「ジャーキー」を与えるところを見たことがあるから全然信用できない。

2016/06/12

「柴系雑種」

辺鄙な地方や避暑地や島嶼部では放し飼いの犬が多く、野犬の群れもいる。当局は数を抑えるために野犬の特に仔犬を箱罠などで捕らえる。成犬はそういう手段ではなかなか捕まらない。狂犬病が国内に入ったとき野犬が多いと危険なためだが、現状では犬の自然繁殖に対し後手後手であり、ほとんど無駄な努力じゃないかと思う。ともかく篤志家たちはそれを引き取っては都会に連れてきて里親探しをする。

そういう犬たちには「柴系雑種」と呼ばれるタイプが多い。彼らはほぼ立ち耳巻尾で、しかし耳は大きめで巻きは緩め、毛色は柴犬より薄い茶色が多い。薄いというか一本のトップコートの毛に白から漆黒までのグラデーションを持つことの多い和犬の毛に比べて色味に乏しい。和犬も狼に比べれば乏しいが。和犬のことを知らない人たちは彼らも柴犬だと思っていることが多い。ときどき白や白茶斑や少ないがブラック&タンもいる。そして柴犬より幾分大柄で脚がすらっとしていて眼はほとんど洋犬の眼をしている。奥眼と短めの脚は柴犬が低山の下生えをくぐって走るのに適応した結果だ。洋犬と和犬の両方を狩りに使う人いわく、洋犬は狩りの後眼に入ったゴミを取ってやるのが一苦労だが、和犬にはその必要がないと。

たぶん立ち耳や巻尾はヘテロでも発現する優勢な遺伝子により、和犬の引っ込んだ眼や柴犬の短い脚は劣勢遺伝子によるんだろう。

なお、和犬の間で交雑した犬は「和系雑種」と呼ばれる。

2016/06/08

国立医薬品食品衛生試験場

上用賀一丁目の国立医薬品食品衛生試験場は今年川崎市に移転する。跡地がどうなるかまだわからない。元は府中市に移転する予定だったが、市民が「住宅地の真ん中に危険なバイオ研究施設はいらない」とて反対運動した結果お流れになったそうだ。今の場所では病原微生物など扱わないが移転先ではできるようにするらしい。



敷地の西側は土手のような土の斜面になっていて、そこに様々な種類の桜が植えてある。ソメイヨシノ以外はまだほんの若木だが。

試験場正門斜向かいのローソンはまだフランチャイジーが決まらない。いい気味だ。場所も悪い。用賀七条と中町通りの交差点にあったファミマは遥かに好立地で客もよく入っていたのに経営者は十年目に契約を更新しなかった。跡はマイバスケットになってしまった。

2016/06/07

"Shiba scream"

柴犬が急なストレスまたは欲求不満により大きい金切り声をあげることを英語圏では "Shiba scream"という。もし街中でやられると周り中の通行人が振り返り窓が開き不審または非難の眼を飼い主に集注する……というのが以前海外のブログなどを読んで得た知識である。

うちの犬も若犬の頃そういうことが数回あった。犬を連れて砧公園に毎週行くようになったのは早くとも生後七ヶ月の頃だが、その帰りに家の前まで来た時近くを顔見知りの黒猫が走って通り過ぎた。すぐ近くの餌やりをする家に出入りする二匹の若い黒猫の片割れだが、さちはキャワワワワーンと自動車に脚でも轢かれたかのような絶叫を放った。遊びたかったに違いない。

もう一回はベルヴェットの待合室で、向かいに座った飼い主のコーギと遊びたがったが、向こうは「ダウン」「グッボーイ」などと言われておとなしくしており、こちらもリードを緩めなかったら鳴き喚きだした。その頃は獣医師を怖がるようになる前かすぐ後で、ふつうは待合室では平静にしていられた。

別の時はまだ一日三回給餌で、構ってやれない時は玄関の土間に置いた長辺 90cm のケージに入れていた頃だったが、お昼に宅配のピッツァが届き熱々の箱を捧げ持って昼食がまだな犬の前を素通りしようとした時だった。

成犬になって以降は全くそういうことはなくなった。